技術情報

産業用ネットワークソリューション / 電力・変電所

2022/08/18
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エネルギー産業での正確な電力情報データを収集する大切さ

新しい電力経済において、仮想発電所=Virtual Power Plant (VPP) は、さまざまな分散型エネルギー資源=Distributed Energy Resources (DER) からの電力の集約を可能にし、エネルギー取引のための効率的なプラットフォームを提供する先導的な役割を果たしています。この技術情報では、IIoTコネクティビティがどのようにVPPを実現し、利益を享受できるかを説明します。

データの力を活用する

再生可能エネルギー利用技術の成熟に伴い、グリーンエネルギーは、従来の原子力発電や火力発電に使われる化石燃料から引き起こされる公害や環境破壊に対処するために、これらの電力リソースに代わる実行可能な代替品として急速に普及しはじめています。しかし、グリーンエネルギーへの依存は電力網の安定性に大きな負担をかけることになります。電力網は電力の需要と供給のバランスに大きく依存していますが、自然の力を利用して発電する風力や太陽光などのグリーンエネルギーは天候や気象条件に左右されることも多く、発電量を安定させることが容易ではありません。そこで、電力網の電力変動に迅速に対応できる、よりレジリエンスのある電力網を確保するためのテクノロジーが不可欠となります。この問題を解決するためのソリューションとして注目されるのが仮想発電所=VPPです。

仮想発電所 (VPP) は、ITとIIoT (産業用IoT) 技術の普及後に登場した分散型 "Internet of Energy (IoE)" です。仮想発電所は従来の集中型発電所とは異なり、集中型発電所だけに限定されないさまざまな電力資源からエネルギーをクラウドソーシングします。再生可能エネルギー発電所、屋上のソーラーパネル、蓄電池、電気自動車など、仮想発電所はあらゆる場所で、あらゆる種類のエネルギーを収集します。しかし、従来型と非従来型の両方の電力資源から、電力を正常かつ柔軟に収集してディスパッチするには、リアルタイム監視が必要となります。電気自動車が一般的に通勤にも使われるようになった今日の世界では、電力需要のピーク時には、仮想発電所が緊急のニーズを解決するために、充電センターに停車中の自動車を電力網に接続して電力を供給することまで考えられます。逆に、再生可能エネルギーが過剰に発電された場合は、その電力を自動車に蓄えることも可能となります。

また、VPPは、供給と需要を一致させることで、エネルギーの浪費を削減するという重要な役割を果たします。エネルギー浪費の最も一般的な例は、特定の地域で発電された再生可能エネルギーの余剰分を廃棄することです。仮想発電所では、これを回避することができます。たとえば、 風力発電エネルギーの供給が特定の地域の電力網の需要を超えた時点で、時間価格メカニズムによって価格を下げることで、電力使用量を促進することができます。このような方法が、電力の供給と需要のアンバランスによる電力浪費の問題を解決する手段となります。

仮想発電所は、未来のエネルギー需要に対するソリューションであることは明らかです。しかし、これが本格的に実現する前に、まだいくつかの問題点を解決する必要があります。電力網のレジリエンスを実現するために、仮想発電所は大量のリアルタイムデータを収集する必要があります。つまり、"見える化" することができなければなりません。そのためには、"どれだけの再生可能エネルギーが電力網に統合されるのか"、"ユーザーはどれだけのエネルギーを必要とするのか"、"現在充電中の電気自動車の台数は?" などの問いに明確に答え、"見える化" する必要があります。 これらの質問に答えるためには膨大なデータが必要となります。しかし、エネルギー分野におけるIIoTの構築は、スマートフォンにAPIをインストールするような単純なものではありません。データ受信のためのデバイスは、灼熱に耐えなければならない砂漠の太陽光発電所や、乱気流や腐食性の塩分を含んだ潮風に晒される海上の風力発電所、あるいは、信号を混乱させる高電磁波の干渉が激しい変電所などのような場所に設置される場合があります。過酷な環境下にフィールドデバイスが点在していることに加え、データを収集するには、さまざまな独自の産業設計を統合するための専門的な人材が必要で、これは非常に困難なタスクとなります。IIoTテクノロジーが強固な永続的なデータストリーム基盤を構築することにより、仮想発電所の"見える化" にどのように貢献できるかを詳しく見ていきましょう。

IIoTテクノロジーによる見える化:配電ネットワークの謎を解き明かす

電気自動車がますます主流になりつつある現在、配電システム運用者 (DSO) が電力網を最大限に活用できるようにするには、負荷の変化をリアルタイムで把握することが不可欠となります。ドイツのあるDSOは重要なタスクを見つけました。2020年の時点で、このDSOは低電圧電力網の電力消費データを確認することができませんでした。そこで、このDSOは、変電所の電力データに関する透明性を高めるためにIIoTテクノロジーに着目しました。目標は、配電フィーダーから1分ごとに収集される電圧、電流、周波数、有効電力/無効電力など21種類の計測データを、見やすく、理解しやすい情報にすることでした。こうした情報を最適化されたEV充電管理システムと組み合わせることで、既存の配電システムの能力を最大限に引き出し、サービスを提供する230万世帯により多くの電力を供給することができます。

しかし、変電所からのフィーダーは量が多いだけでなく、形や大きさもまちまちで、さまざまな地域に分散しています。その上、設置者が変電所への定期的な出入りの際に、誤って他の機器に触れないようにするために厳重に管理されることがよくあります。そこで、2つの新たな課題が生じます。まず、いかに少ない人員でIIoTテクノロジーを迅速に導入するか。次に、さまざまな変電所に散在する IIoTデバイスに効率的にパッチを適用して、安全性を確保するにはどうすればよいか。これらの問いを念頭に置いて、IIoTインフラストラクチャは「操作が簡単で、安全で、シームレスにアップグレードできる」という基本的な要件を満たす必要があります。これを考慮して、多くのシステム開発者は対応するソリューションを探しています。

このケースでは、システムインテグレーターは、変電所の設計を変更することなく、IIoTデバイスを迅速かつ安全に展開できるエンド・ツー・エンドのソリューションを提案しました。IIoTテクノロジーに精通していないオペレーターでも、自分で容易に導入することができます。このシステムにより、クラウドデバイスマネージメントプラットフォームに設定を保存してリモート管理することが可能です。また、セキュリティ認証に合格した後、フィールドデバイスに設定を自動的にインポートすることもできるため、面倒なアクティベーション手順が不要になります。このソリューションでは、人員の専門知識とリソーススケジューリングによる問題の解決に加え、リモートパッチも利用できます。このような強力なソリューションは、電力網のアップグレードのスピードを加速させ、"Internet of Energy" の促進に貢献することができます。

電力給電:リアルタイム制御

これまで、再生可能エネルギーは不安定で予測不可能であると見なされてきました。持続的に利用するためには、需給をコントロールし、バランスをとる必要があります。最適な需給バランスを実現するためには、リアルタイムの監視と制御が不可欠です。しかし、これは言うほど簡単なことではありません。例えば、ある国では、再生可能エネルギー発電所は150ミリ秒以内に配電網の電力接続の調整を完了させる必要があると規定されています。このわずかな時間に、安定的かつ信頼性の高いリアルタイムデータの収集が不可欠です。しかし、データホスティング機器は、悪天候や塩害、電磁波干渉の影響を受けやすく、広大な屋外のサイトに分散配置されることが多いため、安定したデータ伝送の実行は困難をきわめます。データの損失を防ぎ、リアルタイムで円滑にデータを伝送するためには、ハイエンドのネットワーク冗長化テクノロジーを導入する必要があります。例えば、1つのネットワークが使えなくなった場合、バックアップネットワークを経由してデータを伝送することで、データストリームの中断を避けられます。こうして、24時間ノンストップの正確なリアルタイム監視・制御システムを構築することができます。

消費者と運営者の両方がWin-Win

運営者が屋外のリモートサイトを監視する以外に、一般住宅やビルに設置されている高度計測インフラストラクチャ (AMI) でもデータを収集することができます。AMIは電力使用情報を完全に透明化します。消費者はスマートフォンを通じて自分の電力使用量を秒単位で把握することができ、一方、運営者はユーザー (消費者) からの通知を待たずにAMIでリアルタイムに異常を発見することで修理時間を短縮することができます。さらに、消費者のデータをリアルタイムで収集した上で、各世帯の電力消費量の "波形" 分布を算出し、時間帯別の消費量の把握や予測することも可能です。誰もいない時間帯にはエアコンを消すなどして無駄を省いたり、プロバイダーが時間帯別の料金を設定したりすることもできます。しかし、それを実行するには、電力消費情報を正確に運営者のシステムに還元する必要があります。家庭用のメーターは屋外ほど過酷な環境には設置されませんが、各配置場所のレイアウトは複雑かつ多様で、人の影響も大きく受ける場合があるため、ちょっとした不注意が通信の安定性に影響を及ぼす可能性があります。また、運営者が間違った電力使用情報を受け取り、電力使用量の計算を誤る可能性もあります。情報の損失を回避するため、通信がダウンしているときは、ストア・アンド・フォワードテクノロジーを使用することができます。メーターのデータは最初に保存し、通信が復旧された後に伝送することで、消費者と運営者の両方の権限を保護することができます。

仮想電力の取引

情報の透明性が高まり、再生可能エネルギーの価格がより手頃な価格になれば、消費者は生産者になることもできます。言い換えれば、生産者がタイムリーに電力網に電力を売ることが可能になります。この変化により、需給スケジューリングがさらに柔軟になります。しかし、このレベルの柔軟性を実現するには、セキュアで分散型のネットワークが必要です。そのため、仮想発電所とブロックチェーンを組み合わせている国が増えています。ブロックチェーンのスマートなトランザクション契約を通じて、ブロックチェーンの分散型で透明性があり、改ざん不可能な性質を使って、安全でスムーズな購入とエネルギーの伝達が保証されます。これにより消費者は、近隣の供給元など、安価で、従来とは異なる供給源から自由に選ぶことができ、中間のアグリゲーターを経由しない自由な選択ができます。

IIoTテクノロジーを通して、電力網は経験に基づく管理からデータ駆動型 (data-driven) 管理に変わりました。 複数のプラットフォームと一般の消費者の参加を通じて、電力網はより強力になります。電力利用率が上がり、電力の無駄を省いて、エネルギー効率の高い世界を真に実現することができます。

仮想発電所におけるIIoT技術の詳細については、下記のホワイトペーパーをご覧ください。

ホワイトペーパー:仮想発電所のためのIIoTコネクティビティを可能にする