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実証されたTSN(Time-sensitive Networking)の利点を利用して高度で信頼性と自由度の高いネットワークを構築する

  • 2023.01.27
実証されたTSN(Time-sensitive Networking)の利点を利用して高度で信頼性と自由度の高いネットワークを構築する

産業オートメーションに使用する通信は、大きく分けて3つの潮流に分類されます。まず、その変遷を振り返ります。最初は、fieldbusによるシリアル通信が長い間主流でした。このfieldbusは、産業用オートメーションアプリケーションにおいて大量のデータをタイムリーに送受信および処理する際に、機器、インターフェース、ボーレート、プロトコルがメーカや規格ごとに、それぞれ異なることが多いことからネットワークのインフラストラクチャの共有化を進めようとしても不可能であるという問題がありました。

そこで、これらの課題を解決するためにイーサネット規格を活用し、産業用イーサネットと呼ばれる形で、様々な規格が生まれ実用化されました。標準的なイーサネット規格を利用することで通信速度も飛躍的に向上、多くのデータ通信が可能になりました。これにより産業用イーサネットは、シリアルベースのfieldbusから置き換えが進みました。しかしながら、この産業用イーサネットにも課題がありました。他社製品との接続を前提としていないことが多く、相互接続が行えないという問題です。また、イーサネットというケーブルが共通化できても複数のプロトコルを混在させることが難しいという問題もありました。産業オートメーションにおける通信要求を満たすことが最優先されることは、産業用イーサネットの特徴でもあり、例え、TCP/IP通信を利用したとしても、同一ネットワークで複数の通信が混在する場合、求められる制御に対するパフォーマンスを確保することを考慮すると、個別のシステムを構築する必要が生じるという問題がありました。

ここで登場したのがTSN(Time-sensitive Networking)です。TSNは、ネットワーク上での時刻同期やトラフィックのマネージメントを行うことで、接続されたすべての機器が共通の時刻基準を共有し、特定のタスクのための任意の時点ですべてのデータを利用できるのでこれらの課題を克服することができます。TSNは、決定論的なネットワーク環境に組み込まれた低レイテンシーにより、パフォーマンスとセキュリティを最適化できるため、これらのTSN対応システムは高い信頼性を有しています。

このTSN(Time-sensitive Networking)は、独創的な知見を広く世の中に伝える媒体の学会誌や学術誌における論文の段階を過ぎ、現実世界での実用化へと飛躍し、現在、新たなネットワークインフラストラクチャ中心のテクノロジーになろうとしています。2018年にCC-Link協会は、産業用ネットワークではいち早くTSN対応を表明し「CC-Link IE TSN」の仕様公開を行いました。2019年にはPROFIBUS & PROFINET International(PI)から「PROFINET over TSN」の仕様も公開されました。また、2022年以降は、具体的な製品の開発も進み、現場で使える製品が数多く供給されるようになり、特にDXという流れが現実のものとなってくる中、高度な信頼性を保ちつつ自由度の高いネットワーク構成が求められる環境はさらに広がってきています。このエキサイティングなテクノロジーの恩恵を受けようとする企業は、ニーズを理解し、TSN対応システムの構築に着手する必要があります。 Moxaは、IEEE TSNタスクグループが結成される以前からIndustry 4.0とも呼ばれる製造分野におけるデジタル化、および産業オートメーションのためのすべてのキーテクノロジーを推進するために業界のパートナーと協業してきました。TSN(Time-sensitive Networking)は、Moxaがすでに貴重な貢献をしている産業用デジタル化アプリケーションの重要なイネーブラーです。実際、Moxaは、多くの業界関係者と提携してTSN対応システムを構築し、いくつかの技術的な進歩や実際のアプリケーションを通じてTSNの実証済みの利点をファクトリーの製造現場に展開しています。

技術的な成果

Moxaは、技術的な観点からNXP Semiconductors N.V.と提携して主要なTSN冗長化プロトコルである802.1 CBの高い信頼性を証明しました。さらに、Moxaは、IntelおよびKeysightとの協力により、将来的にワイヤレスTSNネットワークの実現可能性も実証しました。

実証されたネットワークの冗長性

高いレベルの信頼性を実現するためにIEEE 802.1CB Frame Replication and Elimination for Reliability(FRER)は、複数のばらばらな通信経路を介して各フレームの複製コピーを送信できるように機能する必要からネットワークの一部が故障した場合でも、プロアクティブな冗長性によりシームレスな通信を可能とします。 昨年のTaipei automation 2022において、Moxaは、オランダの半導体設計および製造会社であるNXP Semiconductors N.V. およびport Industrial Automation GmbHと提携して、Moxaスイッチを介してNXP装置と接続して802.1 CBベースのリングトポロジの信頼性を検証しました。エンジニアが特定のネットワークケーブルを抜きネットワーク障害の状況を観察した結果、重要な機器を制御するデータパケットの同期の乱れなく、正常に動作し続けたことが確認できました。このシミュレーションテストでは、堅牢なネットワーク冗長性が単一障害点だけでなく、複数の障害点の回復に役立つことも実証されました。

ワイヤレスの可能性を引き出す

産業オートメーションに TSN を実装するためのもう1つの重要なステップは、ワイヤレスアプリケーションでデータを確実に送信できることを確認する必要があります。多くの産業用機器としてモバイルが使用されているため、真の IIoT は、幅広いTSNワイヤレスアプリケーションなしでは実現することができません。一昨年のTaipei Automation 2021においてMoxa、Intel Corporationおよびport Industrial Automation GmbHでは、データを瞬時に送信するための業界初のすぐに使用できるアプリケーション間のTSN ソリューションを実証するプラットフォームを開発しました。様々な通信プロトコルと互換性があるように設計された新しいプラットフォームは、柔軟性と拡張性に富み、特にモバイルデバイスが望まれるだけでなく、実際のユースケースで必要とされる場合に、次世代のスマートマニュファクチャリングおよびロジスティクスソリューションの構築にも使用できます。

ワイヤレスTSNは、真に統合されたハイ・パフォーマンスネットワークインフラストラクチャとしてTSNの可能性を最大限に引き出し、あらゆる種類のトラフィックを共存させることができます。

テクノロジーをさらに進化させる

Moxaは、テクノロジーが機能することを証明するだけでなく、企業が具体的なビジネス上の恩恵を享受できるように、いくつかの実際のアプリケーションにTSNを実装しました。

半導体ウェーハー製造におけるTCO (総所有コスト)の削減

Moxaは、ELS System Technology (台湾の大手リソグラフィソリューションプロバイダー)と協力して、ウェーハープロセスにTSNを統合することに成功しました。このシステムには、ウェーハーのミスアライメント補正システムにマシンビジョンを組み込むことが含まれます。TSNテクノロジーは、高帯域幅ビデオアプリケーションと高信頼性のオンデマンドモーションコントロールCC-Link IE TSNを統合することに成功しました。このソリューションによりミスアライメント補正システムのためのマシンビジョンを完備した安定したモーション コントロール システムを実現しました。 また、MoxaのTSNソリューションは、異なる要件を有する様々なタイプのトラフィックをサポートし、同じオープンで標準的なネットワークを使用してリアルタイムでネットワークトラフィックに関する正確なモーションコントロールデータを提供します。さらに、TSN ソリューションは、ネットワークの経済的な実現性を高め、インフラストラクチャのメンテナンスと拡張を容易にするためTCO(総所有コスト)を削減することにも貢献できます。

ビデオコンポーネントのロギングによりダウンタイムを最小限に抑える

リアルタイムのビデオ監視は、データと帯域幅を大量に消費することが知られています。 TSN の超信頼性と限定的な低遅延により、ネットワークを介してライブビデオを録画およびストリーミングするための統合アプリケーションの構築が実行可能なタスクになります。 三菱電機での目視検査中にすべてのシステムコンポーネントのロギングの改善を支援するためにMoxa は、ビデオストリーム、波形、および関連情報を記録する機能を備えたモジュールを製作し、ユーザが必要に応じてトラブルシューティングを迅速化できるようにしました。エンジニアは、もはや異なるデバイスまたはネットワークを精査する必要がないため重要で同期したビジュアルデータが安全にアクセス、保存、保護されているTSNベースの統合システム上でフォレンジック調査を実施できるようになりました。

TSNがどのように役立つか

TSNは、スマートファクトリーオートメーションの鍵となります。すなわち、決定論的なリアルタイム通信により異なる機器をシームレスに連携させることができるからです。ネットワークの規模と複雑さが増すにつれてTSNは、トラフィックマネージメントを実装し、システムリソースに優先順位を付けて、重要なデータが時間どおりに配信できるようにすることでネットワークの信頼性と安全性が非常に高くなります。 ここでは、TSNの機能を紹介する2つのユースケースと、Moxaがシステム事業者、マシンビルダー、エンドユーザと協力してTSNでより優れたリターンを実現することを検討します。

使用例1:機械メーカ

機械メーカは、市場の高度化、統合化、自動化の要求に応え、ビルトインの拡張性、センシングの高速化、レーザーやマシン制御の複雑なアプリケーションを提供することを目指しています。しかしながら、最適なパフォーマンスを発揮するためには、各コンポーネントに属する異なるプロプリエタリーのネットワークをシームレスに通信および統合することが必要です。さらに、これらのネットワークのメンテナンスは、特にマシンが海外に出荷され、オペレータへのトレーニングがフォローされていない場合があるため、オペレータにとって大きな課題となります。

Moxa は、カメラ、センサー、およびマシン制御間の決定論的通信を可能にする統合TSNネットワークを開発しました。MoxaのTSN-G5008シリーズフルギガビットマネージドスイッチは、複数の I/Oをサーボドライバおよびマシンビジョンカメラに接続します。 イーサネットでの first-come, first-served (FCFS)の性質は、重要なデータを同じケーブルで送信することはできませんでした。 しかしながら、標準イーサネットTSNインフラストラクチャを使用するとトラフィックマネージメントにより重要なデータがネットワークリソースを共有し、データパケットの配信が保証されるようになりました。 このスイッチは、機械メーカなどの製造ネットワークを TSN に対応させ、Industry 4.0の恩恵を享受できるように設計されています。

使用例2:マスカスタマイゼーション製造システム

製造サイクルの短縮は、効率性がコストの削減と柔軟性の向上に繋がるため企業にとって有益なことです。 また、企業は変化する市場に対応し、市販されている既製品を意味するCOTS(Commercial-Off-the-Shelf)製品などのマスカスタマイズされた、より利益率の高い製品を提供することも可能になります。製造業者にとって、このような効率性と柔軟性は、製造、組立ライン、物流などの様々なシステムが統合されたネットワーク上にある場合にのみ実現できるため生産および流通プロセスの変更と調整を短期間でより効果的に迅速に実施できます。

マスカスタマイゼーションを可能にするためにマシンマニファクチュアラーは、MoxaのTSN-G5004シリーズおよびTSN-G5008シリーズイーサネットスイッチを導入して、既存のプロプリエタリーネットワークを単一のTSN対応ネットワークに結合し、効率を高めることができます。 最も重要なことは、マシンマニファクチュアラーが情報技術 (IT) と運用技術 (OT) の融合を実現して、製品の製造に必要なプロセス数を削減できることです。 このように資産は、TSN対応ネットワークを介して管理されるため、適応製造、マスカスタマイゼーション、および製造の最適化が可能になり、決定論的通信によって製造プロセス全体を効果的に制御できます。
簡素化されたネットワークトポグラフィによりメンテナンスが容易になり、費用対効果が高くなるため、オペレータにとってメリットをもたらします。オペレータは、プロトコルや要件が異なる多くのネットワークではなく、統合されたネットワークを維持できるため、トレーニングを合理化できます。ケーブル配線もより簡単になり、メンテナンスコストの削減に貢献します。

無限の可能性

TSN は、産業オートメーションの世界に効率性、容易なマネージメント、および費用対効果を提供します。 その決定論的な通信は、有線またはワイヤレス無線を問わず、高い信頼性が要求される産業用システムに必要な超信頼性に貢献します。TSN には異なるデバイスに対して標準的なユニファイドネットワークを必要とするため、ITとOTの融合によりノード数が少なくなり、ケーブル配線の合理化、メンテナンスの簡素化を実現することができます。 これらの利点は、マシンビルダーからシステム事業者、エンドユーザに至るまで幅広い関係者によって実現されています。

マシンビルダ

TSNテクノロジーによりマシンビルダーは、モーションbusとネットワークで送信される情報を同じケーブルに収束させることができる競争力のあるネットワークインフラストラクチャを利用することができます。このシンプルなアーキテクチャは、ノード数を減らすことができるため全体的なコストとメンテナンス労力を削減することができます。また、また、パフォーマンスの観点から制御ループのサイクルタイムを短縮でき、より多くの機器を制御できるようになります。 さらに、TSNは、ギガビットネットワーク上で動作するため帯域幅が広く、将来的にアプリケーションを追加するために適しています。

システム事業者

ユニファイドTSNネットワークは、ケーブル配線とエンジニアリングの労力を削減することでネットワークと自動化アーキテクチャを簡素化します。すべてのプロプリエタリーネットワークテクノロジーをシングルケーブルに収束するTSNの機能は、ネットワーク計画と規模を制御および予測できることを意味し、それによってTCO(総所有コスト)の削減およびメンテナンス労力を低減します。

エンドユーザ

さらにTSNは、既存のネットワークと互換性があるため、異なるプロプリエタリーシステムに接続する追加のネットワークゲートウェイは、もはや不要となります。 実際、TSNは、既存の標準ネットワークと互換性があるためデータアクセスが容易になりシステムはエンドユーザのリソースと労力をより簡単に最適化することができます。また、既存のネットワークテクノロジーと比較して、TSNは、重要でなく帯域幅を多く消費するアプリケーションよりも重要なパケットを優先的に処理する機能を備えているためシステム全体のダウンタイムを低減することができます。最後になりますが標準的なイーサネットテクノロジーを活用することで、イーサネットのために開発された最新のサイバーセキュリティソリューションをTSNネットワークでも利用できるようになり、絶え間なく変化する脅威環境において、より優れた保護と適応性を提供します。

TSN導入の準備

TSN対応のアプリケーションを実装する場合、既存のアプリケーション要件とネットワークトポロジを十分に理解することが最適なプロトコルとスイッチおよびエンドデバイスの最適なコンフィギュレーションを選択するための前提条件となります。

図:MoxaのTSNスイッチによりPLCとエンドデバイス間でデータ伝送を実現

図:MoxaのTSNスイッチによりPLCとエンドデバイス間でデータ伝送を実現

PLC通信と画像キャプチャの両方を必要とする例を考えてみましょう。このアプリケーションでは、2 種類のデータを同じホストコンピュータに送信する必要があります。組み合わされたネットワークトポロジを使用すると、ビデオストリームがPort4からPort1 に送信されます。一方、コントローラがマスターサーバに同期メッセージをPort2 からPort1 に送信していることがわかります。

高帯域幅ビデオストリームから制御パケットを保護するには、関連するコンポーネントとポート上に時刻同期(802.1 AS)と1つの回線を時刻によって分けて共用できる時間認識シェーパー(802.1 Qbv)を含むネットワーク上で必要なプロトコルを設定する必要があります。制御パケットは、1msのサイクルタイムで送信され、サイクルデートが300μs、時刻同期データが200μs、残りの500μsは非周期データを実行します。デバイスは、各スロットに対応するVLAN IDを割り当てることで、サイクルデータに影響を与えないようにすることができます。

アプリケーションの動作を明確にした後、最後のステップは、イーサネットスイッチとエンドデバイス上に必要なコンフィギュレーションを設定することです。

要約

Moxaは、長い間にわたりTSNテクノロジーが真の可能性を実現し、業界のリーダーとして産業オートメーションのデジタル変革を加速する支援を行うために取り組んできました。この記事で言及したユースケースを通じて、Moxaが信頼できるパートナーや評判の良いステークホルダーと協力して、デジタルトランスフォーメーションの様々な段階にあるクライアントに将来性のあるTSNソリューションを提供していることを理解していただければ幸いです。Moxaの専門チームは、TSNテクノロジーが大きな変化をもたらす能力を持つアプリケーションに対して全面的に協力する準備が整っています。

SNの導入事例につては、こちらをご覧ください。