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産業用ワイヤレスソリューション / 産業用ネットワークソリューション

2010/03/02
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初歩の電波(無線と電波について)

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はじめに

ここでは、「無線と電波について」これまであまりなじみのなかった方を対象に「初歩の電波」と言う形で「電波の入門」としての説明を行います。概要、イメージ、基本的な事を知りたい方にご覧いただきたいと思いますが、更に詳細な内容を知りたい方は、それぞれの分野の他の資料をご覧ください。

第1章 無線とは

無線通信の略称で、有線ケーブルを使わずに無線媒体を利用して電気信号を伝達すること。」です。この中の「無線媒体」とは、無線で通信を行うための媒体(伝送路)のことで、その種類と具体例は別途示します。一般に通信を行うための媒体としては、銅線(電話線など)、光ファイバーケーブル、同軸ケーブル、電波等が挙げられます。また「電気信号」には、アナログ、デジタル等の形式がありますが、目的や用途によって種類は多種多様です。これらについては、この後で更に説明を加えます。

無線媒体

無線媒体は、一般的に、電波、赤外線、可視光、音波、超音波、X線等を指しますが、これらのうち音波、超音波を除いたものは、電磁波と呼ばれます。

ちなみに音波は、空気中や水中で伝搬しますが、宇宙などの真空中は伝搬しません。一方電磁波は、真空中でも伝搬します。水中ではどうかと言いますと、周波数がかなり低い場合には伝搬しますが、高くなるとほとんど伝搬しなくなります。

無線の用途例

無線の用途には、テレビ放送(音、画像、リモコン)、ラジオ放送、無線LAN(構内通信網)、電話中継、携帯電話、トランシーバ、警察無線、タクシー無線、船舶無線、レーダー、航空無線、衛星通信、位置情報(GPS : 全地球測位システム)、時報(標準電波)、電波時計、ロボット制御、潜水艦、レントゲン、MRI(磁気共鳴画像装置)、リモコン玩具、セキュリティシステム、保護動物の監視、改札、ETC(電子料金収受システム)、気象観測、電子レンジ等、多種存在します。今後も色々な分野で新たな無線の用途や通信方式が開発されると思われます。

新たな話題として、スマートグリッド(次世代送配電網)におけるスマートメーターがあります。これは検針員が行っている電力メータの検針を自動で行い無線を使ってセンターに情報を上げるものです。

無線の長短所
長所
  • ケーブルが不要
    無線の最大の特長であり、ケーブル接続の制限から開放されます。
  • 場所の制約を受けない
    全く制約を受けない訳ではありませんが、媒体により異なる制約を受け、条件も変化します。例えば電波は、周波数にもよりますが、宇宙のような結構遠い所まで届きます。光は、途中に障害物があるとそこで遮られてしまいます。このように全てがいくらでも遠くまで届く事でもなく、媒体や装置の利用環境により異なります。
  • 誰もが受信可能
    誰でもが、他者に気がつかれずに受信する事も可能です。ただし通信範囲外の場所では、当然受信することができません。また受信可能な場合でも装置を持っていることや、受けた信号を人間が分かる信号に復調出来ることが必要です。
短所
  • セキュリティに弱い
    受信装置さえ持っていれば受信可能という意味ではセキュリティに弱い(盗み聞きされてしまう)と言えます。ただしこの短所は通信媒体、通信方式、暗号化、パスワード等により強化することが可能です。
  • 雑音に弱い
    無線装置は、周囲のどのようなものでも不要なものまでも受信しますので、周囲の環境によっては雑音に弱いと言えます。しかし通信媒体、通信方式によっては軽減することが可能です。
  • スピードが出にくい
    有線の場合には、その機器の専用線としてケーブルの利用が可能ですので利用周波数帯域を自由に広げられます。しかし、無線の場合には資源の有効利用の観点や法律の制約等があり必ずしも自由に帯域を広げられません。そのためスピードは出にくくなります。
    また、有線通信と違い雑音の影響でエラーが発生することがあり、場合によっては正確な信号を受信するために繰り返して通信を行う必要がありますので必然的にスピードが出にくくなります。

第2章 電磁波とは

「電磁波とは、電界(電場)と磁界(磁場)が相互に作用して組み合わさり、空間を伝達する波のこと。」と定義されます。

電磁波とは - イメージ
  • アンテナとは
    電気信号を電磁波に変換し、空中に発射するものです。
  • 電磁波
    ガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線、電波等が含まれます。
  • 電界
    電圧がかかっている空間の状態を言います。例えばプラスチックの下敷きをこすって頭に近づけると髪が立つ現象は、静電気が引き起こす電界によるもので、また冬場に発生する静電気により火花が発生する現象(セーター、車のドア、ドアノブ等)は、電界が発生して放電するためです。雷も同様に考えられます。これらは、電荷(物質や原子・電子などが帯びている電気やその量のこと)がプラス側とマイナス側に集まることで電界が発生し、これらが流れると電流と呼ばれます。導体に電圧がかかるとその間に電界が発生します。
    電界 - イメージ
  • 磁界
    ばらまいた砂鉄の上に棒磁石(NとS極を持つ)を近づけるとNからSに向かって砂鉄が一定方向に揃いますが、これは磁界が発生していることを示します。またかつて学校等で実験を行った内容として、コイルと方位磁石を用意し、コイルに電流を流すと方位磁石の針が振れる現象があります。これはコイルで発生する磁界の影響で方位磁石が振れることを意味します。
    磁界 - イメージ

上記の二つの例は、電磁界が静止している場合の現象ですが、電磁波の場合は交流(交番電流と言います)を流すことで、電界と磁界の大きさと方向が変わります。電磁波は、通常この繰り返しが非常に速い場合です。

基本的に、電界と磁界は直角に交わり一周期の長さは、電磁波の波長と言います。また電磁波は、一秒間に30万km進みますので波長と周波数の関係は、

波長(m) = 300,000,000 / 周波数(Hz)となります。

ここで周波数(Hz)は、一秒間に振動する回数を示します。

電磁波と電波の位置づけ

以下は、周波数帯による電磁波の分類です。

繰り返しになりますが、電磁波は、「ガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線、電波等」を言います。電波は、電磁波の一部で電波法では「3,000GHz(3THz)以下の周波数の電磁波」と規定されています。
単位に関しては、この後「補助単位」の表で示しますので参照して下さい。

  種類 周波数 波長 主な利用例
放射線 ガンマ線(γ腺) 3EHz ~ 0.1nm ~ 医療
エックス線(x線) 30PHz ~ 3EHz 10nm ~ 0.1nm レントゲン、材料検査

太陽光
紫外線 3PHz ~ 30PHz 100nm ~ 10nm 偽造防止、殺菌灯
可視光線 300THz ~ 3PHz 1μm ~ 100nm LED通信、光学機器
赤外線 3THz ~ 300THz 100μm ~ 1μm カメラ
電波 マイクロ波
サブミリ波
300GHz ~ 3THz 1mm ~ 100μm 光通信
マイクロ波
ミリ波(EHF)
30GHz ~ 300GHz 1cm ~ 1mm レーダー
マイクロ波
センチ波(SHF)
3GHz ~ 30GHz 10cm ~ 1cm Wi-Fi(無線LAN)、BS・CS放送
マイクロ波
極超短波(UHF)
300MHz ~ 3GHz 1m ~ 10cm 電子レンジ、Wi-Fi、MRI
超短波(VHF) 30MHz ~ 300MHz 10m ~ 1m FM放送、テレビ放送
短波(HF) 3MHz ~ 30MHz 100m ~ 10m アマチュア無線、船舶
中波(MF) 300kHz ~ 3MHz 1km ~ 100m AM放送
長波(LF) 30kHz ~ 300kHz 10km ~ 1km 標準電波
超長波(VLF) 3kHz ~ 30kHz 100km ~ 10km 海底探査、IH調理器
電磁界 極超長周波(ULF) 300Hz ~ 3kHz 1,000km ~ 100km 鉱山通信
極極超長波(SLF) 30Hz ~ 300Hz 10,000km ~ 1,000km 送電線、潜水艦
電波の用途

以下は、電波の周波数帯による分類です。

  種類 周波数 主な利用例
電波 マイクロ波
サブミリ波
300GHz ~ 3T 光通信、非破壊検査
マイクロ波
ミリ波(EHF)
30GHz ~ 300GHz レーダー、プラズマ診断、衛星通信
マイクロ波
センチ波(SHF)
3GHz ~ 30GHz BS・CS放送、Wi-Fi、気象レーダー、ETC
マイクロ波
極超短波(UHF)
300MHz ~ 3GHz 携帯電話、電子レンジ、Wi-Fi、ZigBee、Bluetooth、GPS、RFID、PHS、地上デジタルTV、コードレス電話
超短波(VHF) 30MHz ~ 300MHz FM放送、テレビ放送、警察、消防、防災無線
短波(HF) 3MHz ~ 30MHz アマチュア無線、船舶、RFID、航空、短波ラジオ
中波(MF) 300kHz ~ 3MHz AM放送
長波(LF) 30kHz ~ 300kHz 標準電波、RFID
超長波(VLF) 3kHz ~ 30kHz 海底探査、潜水艦、IH調理器
補助単位,国際単位系の接頭語

周波数とか波長は、非常に大きな値から非常に小さな値まで幅広く存在し、利用されます。以下の補助単位の利用により、どのような値も一目で分かり易くなります。

記号 接頭語 倍数 コンピューター関係
k キロ(kilo) 103、千 210 = 1,024
M メガ(Mega) 106、100万 220 = 1,048,576
G ギガ(Giga) 109、10億 230 = 1,073,741,824
T テラ(tera) 1012、1兆  
P ペタ(peta) 1015  
E エクサ(exa) 1018  
Z ゼタ(zetta) 1021  
Y ヨタ(yotta) 1024  
d デシ(deci) 10-1、分  
c センチ(centi) 10-2、厘  
m ミリ(milli) 10-3、毛  
μ マイクロ(micro) 10-6、微  
n ナノ(nano) 10-9、塵  
p ピコ(pico) 10-12、漠  
f フェムト(femto) 10-15、須臾  
a アト(atto) 10-18、刹那  
z ゼプト(zepto) 10-21、清浄  
y ヨクト(yocto) 10-24  

キロビットとは一般的に考えれば1kbit = 1000bitとなりますが、1Kbit = 1024bitのことで、キロバイト KiloByte とは 1024byteのことが多く、この場合は特に Kbit, Kbyteと大文字で書き、『ケイ』と読むことがあります。

第3章 無線装置

送信機の例(アンテナも含む)

以下に構成例を図で示します。実際の装置とは異なりますが、イメージ的に最低限必要なパートを挙げ、それぞれについて説明します。

① 入力

電波に乗せて送りたい信号や情報を入力する部分です。
入力としては、アナログ、デジタルの形式が考えられますが、具体的には、音声、音楽、映像、データ、コントロール信号等が上げられます。例えば音楽を考えますと、一つには従来から使用されているアナログ形式がありますが、デジタル化されたものを入力する場合はデジタル形式になります。コントロール信号は、デジタル化又は、場合によってはパルスの形式(短時間に急峻に変化する単発の信号)にして情報を入力します。実際の接続に際しては、インタフェースも重要になります。

② 発振器

無線の電波として送りだす高周波の基となる信号を発振します。
電波は、世界的に又は国により用途も含めて周波数が割り当てられていますのでその規格に合う周波数を選ぶ必要があります。電波の利用者(主に発射する場合)が、勝手な周波数を使用すると違法になるばかりではなく、お互いに妨害を与えたりして安定な通信が出来なくなるか、全く使用できなくなります。また同時に安定な通信には、発振器の周波数安定度、周波数の精度も重要な要素となります。 また実際には、送信機の内部で一つの周波数だけを使用する事は稀で、多くの周波数やチャネルを持つことになります。チャネル毎に精度の高い発振器を多数持つにはスペース、価格等の面で問題がありますので、一つの基準周波数から希望するいくつもの周波数をデジタル的な合成により生成する技術が利用されています。これは、周波数シンセサイザーと呼ばれています。

③ 変調・制御

高周波に信号を載せること、及び通信の制御を行います。
変調の方式は多数存在し、入力信号に応じて基本的にはアナログ変調(AM、FM、PM変調等)、デジタル変調、パルス変調等があります。
制御に関しては、携帯電話等の狭いエリアで何台もの携帯電話が、呼び出し、通話をする場合の複数のチャネルを使用して行う制御、システム管理が例として上げられます。

④ 増幅

変調された高周波を必要な電力まで増幅します。
ラジオ放送局の様に100kW程度の大きな出力を持つものや、無線LANのように10mW/MHz(0.01W/MHz)に制限されているものもあります。法律(電波法)に則り必要十分な電力まで増幅する必要があります。自分の無線機だけが大きな電波を出すと他の局に妨害を与えることになり、限られた資源の有効利用となりませんので最大出力は、十分に守る必要があります。 また信号は、忠実に増幅する必要があります。例えばステレオアンプにおいて忠実な増幅が出来ない場合(性能が悪い場合)には、音量を上げると音が割れたり、変な音が混じったりして非常に聞きにくい音になります。電波の場合にも同じようなことが考えられ、忠実に増幅できないと、ステレオアンプの場合で言う変な音が混じる部分では、予定していない余計な電波が出力されることになります。この場合通常は、電波の幅(帯域)が広がることになり、他の無線局に迷惑をかけることになります(電波法では、品質の規定があります)。

⑤ 送信アンテナ

電波を空中に効率よく発射する部分です。 アンテナは、周波数、どのような偏波(電波が飛ぶ時の偏り)を使用するか、指向性(電波を飛ばす方向のシャープさ、角度)、アンテナゲイン(方向のシャープさの最大値)、また使用する電力、用途等により異なります。無線機とアンテナ間の距離が長い場合には、使用するケーブルにも注意が必要で特に、ケーブル損失(電力が途中で消耗する度合い)、定在波比 : VSWR(信号伝達の際の進行波、反射波の関係)、ケーブルの特性インピーダンス(ケーブルの高周波における等価的な抵抗値)に留意します。またアンテナの工事方法(風に対する強度、電気的な接地、雷対策、腐食予防)、アンテナの耐電力(どの程度の電力供給まで安全に動作するのか。通常耐電力を越えると火花が発生して焼損します)が重要になります。通常アンテナゲインが大きいと、それに対応して送信出力電力を下げることが出来ますが、電波を送る方向を絞る必要があります。

受信機の例

受信機の構成図の例を以下に示します。受信する場合にも特定の周波数を扱いますので、現実には発振器を使用して基準に使用しますが、ここではサブ的な扱いと考えて省略してあります。

⑥ 受信アンテナ

空中を飛び交う電波を受けて効率よく電気信号に変換します。
通常送信アンテナと同じような注意が必要となりますが、耐電力は特に考慮する必要はありません。受信アンテナはなるべくノイズの少ない場所に設置し、また伝送ケーブルにノイズが乗らないように注意する必要があります。アンテナからノイズが入ると、それを受信機内部で削減するのは難しくなります。
受信感度を十分に確保したい場合(特別に小さな信号を受信したい場合)には、例えば市街雑音の少ない山奥にアンテナを立て、なるべくアンテナの近くに受信機を設置して、受信機の出力信号をリモートサイトに送る方法があります。古い時代には電話回線を使用しておりましたが、最近ではインターネットを使用して受信機の詳細な調整まで含めて遠隔制御が可能になっております。

⑦ チューニング

アンテナに入る多くの電波信号や雑音から必要な周波数の成分だけを受信するように選び出す部分です。
ここでどの程度シャープに信号を選択できるかで、総合的な受信機の性能が大きく異なりますので非常に重要な部分です。優れた受信機は、この部分が非常にシャープですが、価格も上がります。 カーラジオ等では、AMやFMの受信に際してオートチューニング機能が付いているものがあります。これはある周波数の幅で自動的に受信周波数を連続的に動かして行き、ある程度の強度の信号が受かった所で自動的にストップします。希望した周波数の場合にはそのままとし、そうでない場合には次を選ぶことが出来ます。

⑧ 増幅

受信の信号波は、非常に弱いために増幅が必要です。
アンテナに受かる電波は極端に小さいのでそのままでは、次のステップの復調が出来ないために、そこで取り扱えるレベルまで十分に増幅する必要があります。大きな信号はそれほど増幅する必要はありませんが、小さな信号は非常に大きく増幅する必要があり、結果的には得られる出力が常に一定になることが求められます。
増幅する倍率は、電力比で考えて、1,000,000倍(100万倍)程度から100,000,000,000倍(1000億倍)程度と驚異的な倍率で増幅する必要があります。増幅する場合に必要な条件として、忠実に増幅する事が求められます。その理由は、これだけの倍率で増幅された場合に、色々な信号が混じりあって増幅されるためにもし歪みがあると不要な成分を発生することとなり、結果として雑音を含む事と同じになりますので、次の段階の「復調」で品質の高い復調が出来なくなる場合があります。

⑨ 復調

送信機で電波に載せた信号を取り出し元に戻します。
信号が大きくなれば復調出来るとしても、小さな信号を大きく増幅した場合にはどうしてもノイズの影響を無視できません。信号の中にノイズの割合が増えることで元の信号を取り出すことが出来ないことがあります。従ってこれ以前の処理でいかにしてノイズを除去するか、いかにしてノイズの混入を防ぐかが非常に重要です。
ここでは、送信機側で色々な方式で変調を行った信号を、逆の方法を用いて元の信号を復元します。その種類は、変調の種類と同じようにたくさんあります。

⑩ 出力

希望の形式で取りだします。
適正な信号のレベルと、インタフェースに合わせた形式で出力する必要があります。テレビの場合には、スピーカーに音声と音楽を、液晶パネルに画像を、産業機器に関する場合でしたら、制御信号を次のステップの装置に送ります。

第4章 さらなる理解へ

ここでは、これまでに電波に関連する概要説明をした中で分かりにくい内容をさらに詳しく、テーマを絞って説明します。多少難しい部分も含まれますが、これにより理解が深まり、さらに興味を持ってもらえるように願っております。

電波の発生

電波は、上図のように導体に高周波電流が流れることでその周りに、電流に対して直角に(導体を中心に同心円の形で)磁界が発生し、磁界の発生により磁界に対して直角に電界が誘導され、それがまた磁界を誘導すると言う様に次々に発生して伝搬されていきます。通常この導体の部分で最も効率よく電波を輻射するものは、アンテナと呼ばれます。

アンテナを使用しないと電波が発生しないのかと言うとそうではなく、導体に高周波信号さえ流れれば、電波は輻射されますが、輻射効率は良くありませんので輻射強度は劣ります。また通常輻射することを意図しない電波なので漏洩電波と呼ばれます。この漏洩電波は、他の電子機器に対しては妨害電波(ノイズとなります)となりますので極力減らす必要があります。ラジオを家電製品(テレビ、パソコン、LEDランプ等)の近くに持っていくと雑音を受信することがありますが、それは漏洩電波があることを意味します。

これらに対しては、国際的にも国内でも規制がありますので規格に合うレベル以下に抑える必要があります。一般的には、グランドをしっかり取るとか、金属で密閉して電波が漏れない方法を取ります。またAC電源の受け口にノイズフィルターを用い電源コードから逆流して家中に広がらないような対策を施します。

発振器

発振器は、電波として発射する高周波を発生させる時の基本となります。その周波数精度や周波数安定度が非常に重要です。送信設備によっては、温度、湿度、振動、経年変化を含めて安定度は1ppm程度、又はそれ以上要求される場合があります。1ppmは、1/1000000(1x10-6)を現わし0.0001%を意味します。

送信機の周波数が不安定な場合、それを受信する受信機は電波の周波数の変化に合わせて追いかける必要が出てきて大変なことになります。また割り当てられている他の電波に妨害を与える等、悪影響をもたらします。

安価な発振器は、コイルやコンデンサで構成されますが、周波数精度や安定度は非常に劣ります。一方では安価で比較的性能の良い発振器に相当するもので、家庭で使用する50Hz / 60Hzの商用電源があります。一般的に安定な発振器には、クリスタル(水晶)を使用し、具体的には、携帯電話、パソコン、腕時計、無線装置等に使用されています。ただし最近の時計には、電波時計と称して標準電波(非常に正確な発振器をもつ送信機で、日本では現在二カ所存在します。)を使用するものが増えてきており、誤差は年間を通しても一秒以下になります。精度や安定性の面から言えば、最近GPSは、電波時計に劣らず比較的安価で非常に高性能の時計となります。

水晶発振器

水晶の結晶

さらに安定度が必要な場合には、原子時計として、ルビジウム、セシウム、水素メーザ発振器等が使用されます。安定度はそれぞれ、約10-11、10-12、10-13 となり、水晶発振器と比べて何桁も性能が上がります。
これらの具体的な用途の例として、高い安定度と精度が要求されるGPSの送信機には、セシウムとルビジウムの周波数標準器を用いており、安定度は、10-13 程度です。

電波の性質

電波は、周波数に応じて伝搬特性が変わります。一般的に周波数が低いと、雨、ビル、山等の多少の障害物があっても回り込む特性があるために遠くまで届き易く、周波数が高いと光の様に反射し易く、少しでも雨、霧等の障害物があると減衰する性質があります。

周波数が低いと地上を這うように進む地表波となり遠くまで届きますが、扱える周波数帯域が狭いために大量の情報量を送るのに不向きです。一方周波数が高いと、進み方が直線的になり距離による電波の減衰が激しくなりますが、扱える周波数帯域を広く取れるために大量の情報量を送ることが可能になります。この性質は非常に便利で、距離が離れれば、同じ周波数を使用してもお互いに影響を受けなくなり、色々な場所で電波を有効に利用出来ることを意味します。携帯電話は、エリア毎に分けて同じ周波数を有効に利用しています。

以下の図には、比較的周波数の低い中波、短波、超短波(300MHz以下)の電波の進み方を示します。地球の外側 約80km~500kmの所に電離層と呼ばれるイオンや電子の密度の変化する層が存在します。電波はこれらの層で反射を受けて地球に戻り、場合によっては何度か反射を繰り返し地球の反対側等の遠距離まで届くことも珍しくありません。これらの反射は、周波数や昼夜で変化します。周波数が高くなり、電波の発射角度が上を向くと電離層を突き抜け戻ってこなくなります。

上記の図は主にMF(中波)、HF(短波)、VHF(超短波)の波に特有なもので、場合によっては、スポラディックE層(Es層)がE層とF層の間に発生し反射することもあります。

アンテナの形状

アンテナは、使用目的、特性に応じて様々な形状があります。その中で最も基本とされるのが下記のダイポールアンテナです。これは電波の波長のおおよそ半分の長さにするのが基本です(下図でλは、電波の波長を示します)。これによりその波長に対応する周波数の電波は、最も効率よく発射、又は受信が可能になります。逆に言いますと、周波数が中心から離れれば効率は次第に下がって行きます。

これらのことから一般的には、周波数が低いとアンテナは大きくなり、周波数が高いとアンテナは小さくなります。ただし、この後に説明するアンテナに関する特性項目(アンテナの指向性、ゲイン等)の特徴を出す場合は、必ずしもアンテナの大きさと周波数が反比例の関係にはなりません。例えば図の中のパラボラアンテナは、通常使用周波数が非常に高く例えば10GHz程度の場合波長は3cm程度になりますが、電波を一方向に大きく集約するために波長の10倍以上もの大きさにすることがあります。また本来波長が十メートルを超えるようなアンテナを、小型にするために電気的な細工を施し数メートルにしたりすることがあります。

半波長ダイポールアンテナ

ホイップアンテナ

パラボラアンテナ

八木アンテナ

ヘリカルアンテナ

これらのアンテナの用途としては、以下が挙げられます

  • ダイポールアンテナ : 携帯電話、PHS、アマチュア無線、漁船基地局
  • ホイップアンテナ : 車、船舶、ボート、Wi-Fi
  • パラボラアンテナ : 多重無線通信、衛星通信、電波天文、BS・CSテレビ、Wi-Fi
  • 八木アンテナ : テレビ、FM放送、軍用、アマチュア無線
  • ヘリカルアンテナ : 衛星通信、GPS、航空機、移動通信
電波の偏波

電磁波が空間を伝搬する場合の電界の振動する方向のことを偏波と言います。振動方向が一定の波を直線偏波、振動方向が回転しながら伝搬する波を円偏波(ヘリカルアンテナ等)と言います。円偏波には、右回りと左回りが存在します。また、直線偏波のうち、上の図のように地面に対して電界が垂直な偏波を垂直偏波、電界が水平な偏波を水平偏波と言います。マイクロ波より波長が長い(周波数が低い)電磁波は、送信する側と受信する側とでアンテナの偏波面を一致させないと良好な通信ができないことがあります。この場合に偏波の違いによる伝達の最大のロスは15dB程度になります。

このロスを逆に利用するケースとして、テレビのアンテナを垂直、水平に使い分けることがあります。それは、同じチャネルを使用するテレビ放送局が隣り合う場合に、隣同士を垂直と水平で分けることにより、お互いの干渉を減らします。テレビの場合は、反射等で同じ信号が、時間のずれを持って受信されると、画面が二重に映る、いわゆるゴースト現象が発生します。隣り合うテレビ放送局における異なる偏波の利用は、これと似た現象を軽減します。

上記の説明中の円偏波の具体的な利用としては、物理的に偏波が変化する場合で、例えば衛星通信の場合に衛星は受信者に対して常にアンテナ、すなわち偏波面が同じ方向を向いているとは限らず、直線偏波を利用しますと偏波面がずれることがあります。この場合に円偏波を利用しますと問題を軽減することができます。実際にBS・CS放送やGPSは円偏波を使用して送信しています。また高速移動体同士の通信に有効だとも言われています。

dB(デシベル)とは

デシベルとは、信号の電力比を対数で表す単位である「ベル(bel)」の1/10の単位です。ベルは電話機の発明者グラハム・ベル(Graham Bell)の名から取った単位ですが、デシ(deci)は1/10を意味する接頭語です。身近な言葉として、例えば10dl(デシリットル)がありますが、1000mlや1lを意味します。音の強さや電気回路の増幅度、減衰量などの表現に用いられる無次元の単位です。

式で現わしますと
電力比(dB) = 10×log(倍率)
です。

倍率(比) 電力比 倍率(比) 電力比
1 0dB 1/1 0dB
10 10dB 1/10 -10dB
100 20dB 1/100 -20dB
1000 30dB 1/1000 -30dB
10000 40dB 1/10000 -40dB
100000 50dB 1/100000 -50dB
1000000 60dB 1/1000000 -60dB
1 0dB 1/1 0dB
2 3.01dB 1/2 -3.01dB
3 4.77dB 1/3 -4.77dB
4 6.02dB 1/4 -6.02dB
5 6.99dB 1/5 -6.99dB
6 7.78dB 1/6 -7.78dB
7 8.45dB 1/7 -8.45dB
8 9.03dB 1/8 -9.03dB
9 9.54dB 1/9 -9.54dB

物理量を数字で現わすと数値の幅(桁数)が非常に大きく異なります。例えば無線LANで扱う場合のノイズの電力は、-90dBm(この単位は後で説明します)程度で、これを通常の数字で現わすと0.000000000001Wとなり、これを通常の数字で伝えると間違いが起こり易く、また大筋の値を直感的に把握するのが困難です。これをdB表示にしますと大筋の数値が一目で分かり、大きな取り違いも減ります。又電子機器やケーブルを何段か接続しますと、増幅が必要だったり、減衰が発生したりします。これらは全て何倍、何分の一倍の計算が必要になりますが、dBで現わすと足し算、引き算で済みますので暗算で出来るようになります。これを使える技術者にとっては、非常に便利な単位です。

上表を見ますと、例えば50dBは、100000倍のことで、50dBの5は、100000の0の数を、すなわち桁数を示しています。このことから桁数が一目瞭然となります。また表の下の部分は、一桁内の数字の整数に関する変換値です。

(ここからは、興味のある方への参考説明です。)

上の表で重要な数字を赤で示していますが、例えば2は、約3dBです。4は4 = 22ですのでこれを対数で示すと10×log4 = 10×log22 = 2×10×log2となり、2のdB表示3dBの2倍になりますので、6dBとなります。同様に8 = 23ですので、3dBの3倍で9dBとなります。また5は、10/2ですので、10×log(10/2) = 10×log10 - 10×log2となり、dBで計算すると10dB - 3dB = 7dBとなります。この様に「2は、約3dBである」ことを覚えておけば、赤字の部分は暗算が可能となります。

赤字以外の3、6、7、9をどのように計算すればいいのかのヒントを、参考として以下に示しますので理解を深めるためお試し下さい。92 = 81≒80から9のdB値が計算できます。すなわち 2×10×log9≒10×log80 = 10×log8 + 10×log10、2×10×log9 = 9dB + 10dB = 19dB、これより9は19/2で約9.5dBとなります。32= 9より3は、約9.5 / 2 = 4.75dBと計算出来ます。また72 = 49≒50から7のdB値は計算可能です。残りは6ですが、6 = 2×3から計算が可能です。

次に例として、17dBは、倍率はいくつかといいますと、17dB = 20dB - 3dBを利用して、20dBが100、-3dBは1/2ですので、これで演算しますと
100 / 2 = 50となります。この様に値によっては概算の変換が可能になります。

電力の単位(W、dBm)

電力の単位は、通常W(ワット)ですが、通信に使用する比較的小さい電力の表示にはdBmを使用します。これは、1mWを基準にして対数表示したものでdBの後ろに mW のmを付加します。1W = 30dBmとなりますが、この意味は、1Wは1mWの1000倍になり、上記dBの項を参照してこれをdBに換算すると30dBになるからです。

式で表わすと、
電力(dBm) = 10×log(電力(mW))
となります。

電力に関して一般的にはdBmと現わしますが、厳密に言えば混乱を防ぐ意味からもdBmWが正しいと思われます。

ちなみにWi-Fiの受信感度は、-80dBm ~ -90dBm程度で、GPSの受信感度は、-140dBm程度です。特にGPSに関しては、とてつもない小さな値になります。

その他にdBμVの単位がありますが、主に電圧の扱いで小さな値を使用する場合に用います。受信機の感度の表示やそれらを試験するための装置で多く利用されます。1μV = 0dBμV = 1x10-6Vとなり、1V = 120dBμVです。一見1V = 60dBμVと考えられがちですが、オームの法則で示すと P = E2/R の関係があります。対数をとると、 logP = logE2 - logR すなわち、logP = 2×logE - logRと、電力と比較すると電圧の場合には2倍の係数が必要となります。

式で表わすと、
電圧(dBμV)= 20×log(電圧(μV))
となります。

アンテナの指向性

アンテナの指向性(方向性を示す特性)を大きく分けると指向性アンテナと無指向性アンテナ(オムニアンテナと言うこともあります)になります。無指向性は、言葉に示す様に方向性がなく、どちらの方向にも同じレベルを示します。指向性アンテナは、アンテナの向きによってレベルが異なるアンテナです。その例を以下に示します。

上の図は、アンテナを上から見た図で水平に広がる方向性を示しています。指向性(1)のアンテナは、0度と180度方向に同じレベルの最高強度で、8の字のような特性で輻射(又は受信)しますが、アンテナの中で最も基本となるものでダイポールアンテナと呼ばれます。この場合に90度と270度の方向には、ほとんど輻射しません。
指向性(2)のアンテナは、一方向のみが強いアンテナですが、代表例はテレビ受信用に使用される八木アンテナがあります。これは、0度方向に最も強く、180度方向にはわずかの輻射か、又は低いレベルで受信されます。このアンテナをテレビの放送局に向ければ、正面からの電波以外は受けにくくなりますので、ビル等の反射によるテレビのゴースト映像を軽減することができます。

テレビ等の放送局は、無指向性のアンテナを使用すれば周囲に平等に電波を輻射出来ます。また受信には指向性(2)の様な八木アンテナを使用すれば必要な電波だけを受信することができます。また一対一の通信には、双方で指向性(2)のようなアンテナを使用すれば、送信電力を下げることが可能になりますので、効率的な通信が可能になります。
また指向性に関して上記は、水平方向のみを取り扱いましたが、実際には垂直方向に対する指向性も存在します。その意味で現実的には、水平方向と垂直方向の影響を受ける立体的な方向性を持ちます。ダイポールアンテナの場合には、アンテナ自体を中心の棒とすればそれを中心に穴のないドーナツの形をした特性になります。

アンテナゲイン(dBi)

アンテナは、基本となるアンテナ(現在2種類ある)と比較して最大方向のレベルをdBで現わします。一般的にダイポールアンテナと比較した場合は、アンテナゲインxxdBとして現わします。一方、全方位に無指向性(球面)の理想的なアンテナを基準とする場合には、アンテナゲインxxdBi ( i は、isotropic antennaのことで「等方向性アンテナ」の意味になります)と現わします。この場合、ダイポールアンテナゲイン0dB = 2.14dBiになります。通常指向性アンテナの指向性をシャープに絞れば絞るほど、アンテナゲインは高くできます。これは、目的とする方向のレベルを上げて、それ以外は下げる手法をとります。逆に、いずれか方向のレベルを上げれば、それ以外は必然的に下がることになります。

例として、直径45cmのBSパラボラアンテナのゲインは約34dBiです。また、7.5GHz帯の直径3mのパラボラアンテナのゲインは約43dBiです。Wi-Fiに使用するアンテナには、9dBi、12dBi等の製品があります。

この様に、アンテナのゲインが高いほど、指向性はシャープになります。ちなみに、BSアンテナの取りつけ時の角度合わせは非常にシビアです。BSのアンテナゲインを33dBiとして換算すれば約2,000倍になりますので、いかにシャープであるかが分かると思います。ただし、ゲインが高いほど実際の送信機の電力は軽減することができ、同時に他の無線機器への妨害も軽減できます。 その意味では、例えば上記43dBiのアンテナを使用して1wの送信電力を入力した場合、最大指向性の方向には、dBの換算により20,000W相当の電波が輻射されることになります。一対一の固定通信の場合には、送信機を小さく、消費電力も少なく、他への妨害も少なく非常に効率のよい方法になります。ただしアンテナの方向合わせが非常に微妙になり、ちょっとした物理的なずれが発生すると全く通信が出来なくなります。目的、用途に応じて、どの程度のアンテナゲインにするかを十分に検討する必要があります。

理想アンテナ(等方向性アンテナ)

指向性アンテナ

ケーブルの特性インピーダンス

ケーブルは通常、2本の導体から出来ており、その中を電流が流れます。このケーブルには、厳密に考えますと、わずかずつの抵抗分、コイルの成分、コンデンサの成分が存在します。話を分かり易くするために、コイルの成分、コンデンサの成分だけに注目しますと、等価的に下図の伝送線の部分のように考えられます。高周波のことを考えますと、コイルの性質は、周波数が高くなるほど電流を通しにくくなります。逆に、コンデンサは、周波数が高くなるほど電流を通しやすくなります。

インピーダンスとは、直流を流した時と高周波の信号を流した時とで同じように影響を受ける実際の抵抗、及び直流の時の抵抗とは全く効果が異なるコイルやコンデンサの等価的な抵抗分のことを総合的に言います。直流で抵抗に電流を流しますと、電流に対して流れを阻止する抵抗力のために熱が発生し、電力を消費します。一方で、高周波における理想的なコイルの成分、コンデンサの成分による抵抗分(等価的な抵抗)は、周波数によりその影響は異なり、一見、抵抗のような働きはしますが、熱を消費することはありません。まとめますと、インピーダンスとは、実際の抵抗分、純粋なコイルの成分及びコンデンサの成分による抵抗分のことを総称して言い、単位は、抵抗と同じでΩ(オーム)です。

直流の場合には、下図に示すC0(浮遊キャパシタンス : 容量)やL0(浮遊インダクタンス)は、全く問題(影響がない)にはなりませんが、周波数が高くなるにつれてその影響が出始めます。単純に考えますと、伝送線に電流を流す場合に、周波数を次第に上げていくと、直列のコイル(L0)のために電流は流れにくくなり、また、並列のコンデンサ(C0)のために電流が分岐して流れてしまい、伝達する分が減ってしまいます。そのように考えますと、周波数が高くなるほど電流(又は電力)を伝達することが出来なくなりますが、ここで示すL0やC0は、図のような明確に単独の成分ではなく、分布して存在します。この様に、ケーブルは、L0とC0の分布成分から構成されることにより、上記の様な周波数変化に依存しない一定のインピーダンスを持つようになります。これは特性インピーダンスと呼ばれ、Z0=Root(L0/C0)として計算されます。現在使用されている同軸ケーブルのインピーダンスは、材質により異なる50Ω系と75Ω系があり、広く普及しております。

上図のように、信号源として電圧を加えて、Aでの電流と電圧の波形を見ると、供給源では、位相が同じだったものがずれることがあります。位相とは、上図の電圧と電流の波形の図で、波形の位置関係を言います。電圧波形の図形に記載のある一周期の波形の時間分を360度とした時の角度差(単位は度)を言います。ちなみに、上図の位相差は、概略で45度程度に相当します。位相のずれが発生しますと、信号(電力)が通りにくくなり、もし位相が90度ずれるとインピーダンスの不整合のために信号(電力)は全く通らなくなります。ただし、r = Z0 = Rの時、すなわち信号源のインピーダンス、伝送線の特性インピーダンス、負荷インピーダンスのそれぞれ全部が等しい場合には、不整合が発生しませんので、全ての信号、電力が伝わります。高周波の信号をケーブルで装置やアンテナに接続する場合には、インピーダンスの不整合が発生しないようにすることは、非常に重要なことです。

ケーブルの損失

「ケーブルの特性インピーダンス」の項目で説明しましたように、ケーブルには、浮遊キャパシタンスと浮遊インダクタンス、及び、直流の場合でも存在する実際の抵抗があります。また、現実を考えますと、浮遊キャパシタンスにも浮遊インダクタンスの中にも損失となる実抵抗分が存在し、インピーダンスのミスマッチングによる損失(反射)以外にも、いわゆる実抵抗分による損失(実際の損失)も発生します。この実抵抗分は、現実的には材料の品質を上げれば減らせますが、理想的な材料は存在しませんので、完全には防ぎようがありません。もう一方の接続部分のミスマッチ(インピーダンスの不整合)は減らすことが可能で、これはすなわちインピーダンスを合わせる様に心がける必要があります。

インピーダンスの整合が取れている場合の10m当たりの基本的な減衰量の例を以下の表に示します。

※PE充填タイプ

減衰量(dB/10m)\型名 3D-2V 5D-2V 8D-2V 10D-2V
30MHz 0.77 0.44 0.3 0.22
50MHz 0.99 0.6 0.4 0.31
145MHz 1.71 1.05 0.72 0.56
430MHz 2.99 1.85 1.35 1.05
900MHz 4.47 3.0 2.15 1.7
1200MHz 5.20 3.5 2.6 2.1
1300MHz 5.43 3.7 2.7 2.15
2300MHz 5.3 3.9 3.2
ケーブル外径(mm) 5.3 7.5 11.5 13.7

この表からは、周波数が上がれば減衰量は増え、ケーブルが太いほど減衰量は軽減することが分かります。一般的にケーブルに使用されている材質は、周波数が上がるにつれて各種特性が悪化し損失が増える傾向にあります。また直流の場合もそうですが、ケーブルは太いほうが抵抗分は低くなります。この表は一例に過ぎませんが、もっと減衰量の少ないケーブルも製品として存在しますので、用途に応じて選ぶ必要があります。

同軸ケーブルの種類

同軸ケーブルには、主に「Dタイプ」、「Cタイプ」、「RGタイプ」の3種類があります。「D」と「C」に関しては、名称に以下のルールがありますのでこれによりサイズ、特定、材質等が分かります。例えば上記表に示される「3D-2V」を例に取って以下に説明します。

(3):
最初の数字「3」はケーブルの太さを表します。「3」は直径約3~4mm、「5」なら直径5~6mm程度、「7」なら直径約8mm、
「8」は8~9mm程度、「10」は10~11mm程度のケーブルですが、構造により違いがあります。
一般家庭では3から5のケーブルを使用します。(メーカや品番により多少太さが異なります)
(C):
「C」は、ケーブルのインピーダンス「75Ω」を表しています。テレビで使用するケーブルは「75Ω」です。
「D」は、ケーブルのインピーダンス「50Ω」を現わし、用途は基地局等です。
(2):
芯線と編線組の間にある絶縁物の種類を表しています。
「F」なら発砲ポリエチレンを使用しており、「2」ならポリエチレンを使用しています。
(V):
編線組線の状態を表しており、「V」は編線組線が一重、「B」なら編線組線の内側にアルミ箔を巻いています。
「BD」「BN」なら編線組線の内側と外側の両方にアルミ箔を巻いています。

米国においてはMIL(Military)規格がありますが、これは軍用の規格です。形式は「RG XX/U」となり、その意味は以下の通りです。ケーブルの名称には、特に汎用的な直径やインピーダンスを示す部分はありません。

  • RG : Radio Guideの略
  • XX : 登録番号、付加記号
  •  U  : Universal

例として、「RG-58A/U」は、インピーダンス50Ωで直径は約5mmです。

同軸ケーブルの構造例
電圧定在波比 : VSWR

高周波の信号を伝送する場合に、理想的な条件では全てが進行波として伝わりますが、条件により反射波が発生し信号の一部が戻って来ることがあります。これをリターンロスと呼び、単位はdBです。直流の場合にはこの様なリターンロスの問題は発生しません。(参考に : リターンロスは、反射が少ないほど値は大きく、例えばVSWR = 1.002(反射係数 = 0.001)の場合、60dBとなり、VSWR = 3.01(反射係数 = 0.5)の場合、6dBです。「反射が少ないほどリターンロスの値が大きい」と言う考え方は、単純に考えると混乱しますので、注意が必要です。)

反射が発生する条件としては、ケーブルのインピーダンスと受け側(終端、アンテナ等)のインピーダンスが一致しない場合になります。この進行波と反射波の足し合い、打ち消し合いのために振幅に波を生じますが、これの最大と最小の比を電圧定在波比と言います。

下の図は、SWR(定在波比)の測定器ですが、測定結果が「1」の場合には、反射波がない、また「∞」の場合は全てが反射波になります。

高周波の信号を送信機からケーブルを経由してアンテナに送り電波を発射する場合に、インピーダンスの不整合があると反射波が発生し、電力をうまく送れなくなりますが、これの最も大きな要因はアンテナにあります。アンテナは通常、ある決まった特性インピーダンスを持ちますが、周波数がずれたり物理的に変化したりするとインピーダンスは変化します。また、外部の要因、すなわちアンテナの近くに金属があったり、人がいたり、電界や磁界に影響を与えるものがあると、その影響でインピーダンスは変化し、そのことにより反射波が発生することになります。通常、インピーダンスを合わせることを「マッチングをとる」と言いますが、効率よく電波を発射するには大切な作業です。

電波伝搬距離

電波は、理想的な状態では距離と周波数の二乗に比例して減衰しますので、距離が2倍になると信号は1/4に減衰します。同様に、周波数が2倍になると信号は1/4に減衰します。自由空間基本伝搬損失(理想的な状態(環境)でアンテナからある電力を輻射して、そこからある距離 離れた所までに空間においてどの程度減衰するかの計算値)は、右下の計算式で計算することができます。左下の図は、周波数が2.4GHzの場合の距離(m)に対する損失(dB)のグラフの例です。

実際に送信機からの電波が、受信機に受かる電力は以下の様に計算します。

受信電力(dBm) = 送信電力(dBm) + 送信アンテナ絶対利得(dBi) + 受信アンテナ絶対利得(dBi) - 自由空間基本伝搬損失(dB) - ケーブル損失(dB)

ここで、受信機の感度(最低限どの程度の受信電力があれば、信号を復元出来るかの値のことで、dBmで現わします)は、受信機の仕様により分かりますので、上記の式を用いれば通信距離(m)を計算することが出来ます。

この計算はあくまでも理想的な環境での話ですので、実際には多少なりとも異なることがほとんどです。異なる要因としては、これまでに説明をした「インピーダンスのマッチング」すなわち定在波比が送信/受信共に実際に「1」になっているか(ほとんどの場合この様にはなりません)、受信機の周りのノイズの影響がどの程度あるのか(ノイズにより受信機の実質感度は低下します)、ビル等による電波の反射(本来の受信信号に悪影響を与えます)、フェージング(電波は時々刻々電波伝搬環境の影響により変化し、信号強度が波を打つように良くなったり、悪くなったり変化します)の影響等が考えられます。

ノイズとは

電波を使用する通信において、通信品質を落とすか、または通信不能にする要因として大きなものはノイズです。電波はどこからでも飛んできますので、そこにはノイズの混入もあります。ノイズとは何かと言いますと、受信の際に不要なもの全てになりますが、自分の受信帯域に含まれる、使用しないその他の信号もノイズとなります。無線機器以外の電子装置、産業機械、送電設備、車両、太陽、雷、LEDランプ等からのものも含まれ、また本来届かないはずの予想外の電波、マルチパス(反射波)もノイズとなります。

下図に示すマルチパスフェージングは、色々な経路を通って電波が受信装置に届くために電波の干渉が発生し(メインとなる信号にビル等からの反射信号が加算されたり、減算されたりで信号強度が変動すること)、受信信号強度が大きく変化して、時により通信ができなくなる現象です。携帯電話等では、ほんのわずか位置を変えただけで受信状態が良くなったりします。

その他には受信機の内部で発生する熱雑音も含まれ、これは、受信機内部の抵抗で電子が移動する際の揺らぎによるノイズと言われています。本来、いくら小さい信号であっても増幅すればするほど受信可能(元の信号を復元)なはずの信号が、この様なノイズに埋もれて検出できなくなります。

変調

送りたい信号は、通常そのままでの形では空中に電波として発射することは出来ません。送りたい信号を、空中を飛んでいける電波に乗せる必要があります。例えれば、段ボール箱があったとしてこれを遠距離に運ぶ場合、勝手に動くことはなく、人が手で持って運ぶか、車に乗せて運ぶ等が考えられます。変調とは、搬送波(電波となる高周波)に送りたい信号を載せて空中に発射出来る形にすることを言います。

搬送波は、上の図の様に連続的な正弦波で、振幅も一定の高周波です。変調を受けていないので搬送波の持つ帯域は非常に狭いものです。逆に変調を受けた搬送波は、変調の方式により異なりますが、変調信号を含んだ分だけ幅が広がります。

変調を行う方式には、大きく分けて以下の3種類があります。

  • アナログ変調
  • デジタル変調
  • パルス変調
アナログ変調

これは、アナログ信号で搬送波を変調する方式です。この方式の中にも大きく分けて3種類あります。

■ AM(Amplitude Modulation : 振幅変調)

上の図で、左は、搬送波(波形が見えている)が変調信号で変調を受け、振幅が変化していることを分かり易く示しています。右の図は、搬送波(波形の詳細が見えていない)の周波数が非常に高いことを示していますが、現実的にはこのように見えます。同じように振幅変調を受けた信号ですが、搬送波の詳細が見えているかどうかの差です。この場合、中心から上下が対象になっておりますが、その場合の包括線が元の変調信号です。 代表的な例はAMラジオです。AMラジオの場合、例えばNHK放送の周波数は530kHz~600kHz程度ですが、変調信号は7kHzの帯域となっており、その比率は約80倍程度です。

■ FM(Frequency Modulation : 周波数変調)

右図は、変調信号により変調を受けて周波数が変化していることを示します。振幅は一定で周波数そのものが変化を受ける方式が周波数変調です。代表的な例としてFM放送があり、この方式は、AM変調と比べて周波数帯域は広くなりますが、忠実度(音質:ノイズが少ない、信号帯域が広い、音の歪がない)が高くなります。

■ PM(Phase Modulation : 位相変調)

右図は、途中で波形が折り返す形になっていますが、本来、連続で滑らかな正弦波が途中から変化し、波形が時間的なずれを起こしています。これは位相がずれていることを示し、位相変調と呼ばれます。あまり使用例はありませんが、PSK等(後述)に利用されています。

デジタル変調

これは、デジタル信号で搬送波を変調する方式です。この方式には、右図の様にASK(Amplitude Shift keying : 振幅偏移変調)、FSK(Frequency Shift Keying : 周波数偏移変調)、PSK(Phase Shift Keying : 位相偏移変調) の3種類があります。それぞれ、デジタルの変調信号に応じて、搬送波の振幅、周波数、位相が変調を受けます。

実際の利用例として、ASKはモールス符号通信、FSKはデジタル移動通信、PSKは移動体通信や衛星デジタル放送に使用されています。

パルス変調

これは、信号でパルスの振幅、幅、位相などを変化させて変調する方式です。これらは、大きく分けて、

  • PAM(Pulse Amplitude Modulation : パルス振幅変調)
  • PCM(Pulse Code Modulation : パルス符号変調)
  • PWM(Pulse Width Modulation : パルス幅変調)
  • PPM(Pulse Position Modulation : パルス位置変調)

の4種類があります。

■ パルス振幅変調:PAM

これは、元の信号(変調信号)をある周波数の周期でサンプリングして、その周期で振幅をパルス化する方法です。イーサネット通信でPAM5として利用している例があります。

■ パルス符号変調 : PCM

これは、パルス振幅変調の様に振幅を変換しますが、パルス列のコードに変換します。下の図は、振幅を16レベルに分類し4ビット(4つの1、又は0で現わす)のコードに変換します。実際のレベルは、それぞれの時間に対して図の右側に示す「4ビット表示」の値に変換されて表示されます。使用例として、音楽CD等の書き込みがあります

■ パルス幅変調 : PWM

右下図の様に、信号をパルスの幅に変換します。例として鉄道のモーターをPWM方式でデューティーサイクル(通電する割合のことで、100%は常に通電、0%は全く通電しない)を変化させることで速度を調整しています。

■ パルス位置変調 : PPM

右図の様に、信号を周期に対する時間的なパルスの位置に変換します。位相制御装置の制御パルスとしての利用例があります。

利用する変調方式は、用途に応じて変わりますが、組み合わせも含めてもっと多くの方式が考えられています。

無線通信方式
  • マルチアクセス方式
  • 全二重通信方式
マルチアクセス方式

携帯電話のように、ある特定の割り当てのある周波数帯域(無線通信路)を利用者全員が共有して複数ユーザが同時にアクセス(電話では、ダイヤルし通話をする)する方式には、大きく分けて以下の種類があります。

■ FDMA(Frequency Division Multiple Access : 周波数分割マルチアクセス)

右図のように、割り当て周波数帯域を分割することで複数チャネルを確保して多重アクセスを行う方式です。
用途例は、携帯電話、自動車電話等です。

■ CDMA(Code Division Multiple Access : 符号分割マルチアクセス)

右図のように、割り当てのある周波数帯域を、種類の異なる符号化で得られる複数のチャネルを確保して多重アクセスを行う方式です。複数のチャネルは、全て同一の周波数帯域を使用しますが、符号化(符号化IDの種類は多数あります)によって使用する帯域全体に、ある法則に基づいて信号をノイズに近い形に拡散し(一般的にはスペクトラム拡散方式)、受信時にはその法則に基づいて集積しますので、伝搬時にお互いのチャネルは干渉しない、また、外来ノイズがあっても影響を受けにくい方式です。
用途例は、携帯電話です。

■ TDMA(Time Division Multiple Access : 時分割マルチアクセス)

右図のように、割り当てられた一つの周波数帯を時間的に分割することで複数のチャネルを確保して多重アクセスを行う方式です。時間で分割すると、電話の場合には、音が切れて通話が成り立たないのではないかと思われますので、この辺の説明は、この後のTDD(時分割全二重通信)の所で行います。
用途例は、携帯電話です。

全二重通信方式

右図のように、一対のケーブルを使用して、一方向に信号を送る場合は、「片方向通信」と言います。

お互いがコミュニケーションをとる場合に、逆側からも送ることが必要になりますが、その場合は「双方向通信」と呼びます。ケーブルを一対だけ使用する場合には、下記の方法がとられます。

トランシーバで通話をする時のように、自分が話をする時は送信ボタンを押して、自分が話を終ったらボタンを離します。ボタンを離すと自動的に受信状態になります。ただし、お互いが同時に送話したい場合、双方が送信ボタンを押すことになりますので、お互いが聞こえないと言う欠点があります。このような通信で、二重通信(双方向通信)は可能ですが、お互いに切り替える操作が必要になるために、全自動で行う二重通信と比較して「半二重通信」と呼びます。

また、完全に自動で二重の通信を行うことを「全二重通信」と呼び、現在はこれが主流になっています。

携帯電話等も含めて、無線で全二重通信を行う基本的な方式を以下に説明します。大きく分けて以下の2種類になります。無線通信方式でも出てきましたが、周波数を分割する方法と時間を分割する方法です。

■ 周波数分割 : (FDD : Frequency Division Duplex)

右図の様に、f1とf2のチャネルにそれぞれR(受信)とT(送信)の別々の周波数を設けます。これを、それぞれ受信用と送信用にして使用すれば、全二重通信が可能になります。

■ 時分割 : (TDD : Time Division Duplex)

右図の様に、一つの周波数をある時間周期で分割して、送信(T)、受信(R)を切り替えながら双方向の通信を行います。一見、これでよさそうに見えますが、電話の場合に時間で区切られたら、音が切れてしまって十分な会話が出来ないような感じがします。相手には自分が話をしていることの半分しか届いていないような感じがします。しかし、最近の携帯電話はこちらのTDDを使用するのが主流になっています。以前はFDDでした。

衛星通信利用の様な会話では、相手に届くのと相手から届く会話に時間のずれが発生しますので、かなりゆっくり話すか、遅れることを想定しながら話をしないと苛立ってくることになります。それでは、どの程度の遅延時間なら問題ないかですが、一般的に200m秒(0.2秒)以内と言われています。

時分割の全二重通信についてですが、例えば以下の様な送り方、受け方をしたらどうでしょうか。

説明しますと次のようになります。

  1. 元の会話 : 会話が時間軸上で流れていることを示します。
  2. 時間割 : ある時間幅で区切り、それぞれの時間に当てはまる音声を単位時間毎にデジタルデータに変換します。例えば、時間幅を30m秒に設定し、0.1m秒毎にデジタルに変換します。これで300サンプルのデータが出来ます。
  3. データに : 一つのデータの固まりとして扱えることになります。
  4. 送る : この固まりを相手に送ります。通信速度が速いので、いくつもの固まりをほぼ同時に(30m秒では非常に沢山)送ることが可能になります。その意味で時間的に余裕を持ちますので、この時間で相手からの固まりを自分で受け取ることも可能になります。実際にはこのような形で双方通信を行います。従って、この項で最初に図で示したRとTの繰り返しのイメージは多少異なり、RとTで時間の幅を持つのではなく瞬時に送れます。
  5. 戻す : このデータには、時間軸に対するデータも入っていますので、それを基に実際の時間軸でアナログに再現します。
  6. 元の会話復元 : 時間幅で分割されていたものを全てつなぎ合わせると元の会話内容に戻ることになります。ここで注目したいのは、一コマの時間幅分の遅延があることです。先程の例では30m秒ですが、これは実際に実現可能な値ですし、会話をしても違和感のない時間と言えます。

この様に、周波数分割でも時間分割でも全二重の通信が可能になります。

電波を見る測定器

ここでは、電波を見るための基本的な測定器について概要のみを説明しますが、実際に利用されている電波応用機器の全ての特性を測定するにはもっと多くの複雑な測定器が必要になります。また、最近は特にソフトウェアを利用した装置が増えておりますので、本来、それらの測定器も必要となりますが、ここでは省略します。

測定の3要素

ハードウェアの測定に関連して電気信号を分析、解析する上で重要なものは、主に以下の3つの要素です。

  • (1) レベル : 「振幅、信号強度、電力」等
  • (2) 時間(t)
  • (3) 周波数(f) f(Hz) = 1/t(s)

ここで基本的なことを説明しますと、実は、周期性のあるどの様な波形でも全て正弦波の合成で生成可能であることが数学的に証明されております。電波も電気信号の一種ですので、このことが当てはまります。

例として、右の図は矩形波(台形の波)に近い青の太い線の波形が、破線の4種類の波形を合算すると得られることを示しています。ただし、それぞれの周波数とレベルは異なります。この場合に周波数はそれぞれ、基本波(正弦波)、3倍波、5倍波、7倍波(7次の波)となります。しかもこれらの奇数倍の波は全て正弦波です。7倍波までの合成でもかなり矩形波に近くなっております。これをもっと増やしていけば、ほぼ矩形波になります。このようにどのような波形でも正弦波の合成で得られることが予想できると思います。
詳細は後で詳しく説明します。オシロスコープやスペクトラムアナライザの測定に関係する内容ですので記憶に留めて下さい。

測定の目的

目的としては、信号の要素が何か、レベル、時間、周波数等を測り、それを基にどのような特長があるのかを抽出します。最後にこれらを総合的にみて解析を行い、データとしてまとめます。これらのデータを集め保存することにより、ある装置が異常になった場合に測定を行えば、過去のデータとの比較により異常個所の発見が容易になります。また、製品を大量に生産し、その製品の出荷品質を保つためには、データを取り比較することで短時間に効率良く良否を判断することが可能になります。
測定器の精度、確度がきちんと確保されていれば、取得データは、研究、開発、量産検査等色々な場面で非常に有効なものになります。

データ表現方法

データの表現で最もシンプルなものは、一次元の表現としての電圧、電流、電力、抵抗値、C : コンデンサの容量、L : コイルのインダクタンス等のレベル計で、メータの振れや、数値で表したりします。 複雑な内容は二次元の表示を行いますが、代表的なものとしてオシロスコープ、スペクトラムアナライザ、ネットワークアナライザ等多数あります。場合によっては三次元表示を利用したくなりますが、表現の仕方に難しさがあります。本来上記「測定の3要素」で示した内容を全部まとめて分かり易く表現できれば良いのですが、現状なかなかうまく出来ておりません。

1.オシロスコープ

オシロスコープとは、下記の図に示すように横軸に時間を、縦軸に電気信号(電圧)の変化をリアルタイムに画面に表示し目に見える様にした、二次元で観測できる波形の測定機です。オシロスコープでは、実際はf0のみが観測されますが、上記「測定の3要素」のところでも関連性を説明したように、実は分解すれば f1、f2、f3から成るものです。オシロスコープは、この様に合成された結果だけを表示し、その詳細の成分を表現することは出来ません。

具体的には、ブラウン管上に時間軸と振幅軸上に入力された信号を点として非常に高速に表示して繰り返しますので、画像が止まって見えます。ただし信号の周期性が一定でない場合には、止まって見えることはなく画像は流れてしまいます。

オシロスコープは、基本的に電気信号を表示しますので、温度、湿度、速度、圧力、音声等、何でも電気信号に変換出来れば同様に表示することが可能です。ただし、レベルの表示に関しては、それぞれ内容が何であるかを示す必要があります。

また、オシロスコープが物理的に針を使用したメータと異なるのは、メータの針には重さがある為にそれほど速い動きは期待できませんが、電子的に表示出来るオシロスコープは非常に高速です。その意味では速い変化や突発的な事象も捉えることが可能になります。現在は非常に高い周波数を扱う製品が多数出てきており、それらに対応できる高周波用のオシロスコープも出てきておりますので、非常に重宝な測定器と言えます。さらに、高級な製品になりますとデータをアナログ的またはデジタル的に保存しておき、後ほど波形を比較するとか、高速で単発の事象をも捉えて表示することが可能になってきております。少し古い時代ですと単発の事象は捉えることも難しいことながら、捉えたとしても画面が瞬時に消えてしまうために把握することは非常に困難なことでした。

岩通製オシロスコープ

イメージが分かるように、以下にオシロスコープのサンプル製品を示します。
これはそれほど高価な製品ではありませんが、DC ~ 50MHzの信号を見ることが可能です。また、2チャネルを同時に見ることが出来ます。

2.スペクトラムアナライザ

スペクトラムアナライザは、基本的に横軸に周波数、縦軸に振幅を表示する二次元の測定機です。

上図はオシロスコープとスペクトラムアナライザの関係を示しています。オシロスコープは既に説明しましたように、図の左側から見る様に横軸に時間を、縦軸に振幅を表示します。スペクトラムアナライザは、上図の様に表示する軸が異なり、また、この異なる時間と周波数には、この章の最初の「測定の3要素」の所で説明した f(Hz) = 1/t(s)の関係があります。スペクトラムアナライザは、オシロスコープで示す時間をベースにした波形のデータを、波形成分の分析を行うことで周波数をベースに周波数の成分とそのレベル(振幅)を表示します。従って上図は、同じデータを、見方を変えて表示していることになります。その違いは何かと言いますと、オシロスコープは波形、タイミングの分析に向いているのに対して、スペクトラムアナライザは周波数の成分とそれぞれの対数表示のレベルを詳細に見ることが出来ます。また、そのことから広い周波数範囲とレベル(対数なので百万倍以上もの差も)を大局的に捉えることが出来ます。使い方としては、非常に単純化してまとめれば、波形を重要視するのか周波数成分を重要視するかで異なります。

実際の製品としては、やはりデジタル化してデータをメモリに保存し後日比較したり、長時間の観測を行うことが出来るものもあります。

スペクトラムアナライザの測定例として以下のことが考えられます。

電波の測定例 : 実際に空間を飛び交っている電波は非常に複雑です。

  • 非常に広い周波数帯域の測定
  • 種類の多い(変調、電力)信号の測定
  • レベル差が非常に大きい信号の測定
  • 不要な電波(雑音)が多い多種の信号の測定
  • 時々刻々変化している周波数やそのレベルの測定
  • 場所により大きく異なる電波状態の測定

具体的な製品の例として、キーサイト社製のスペクトラムアナライザを以下に示します。

E4440A PSAシリーズ 高性能スペクトラムアナライザ 3Hz - 26.5GHz

USBスペクトラムアナライザとは何?

スペクトラムアナライザの簡易版としてUSBスペクトラムアナライザが出荷されています。一般的にスペクトラムアナライザは一体型ですが、これは以下の様な特徴を持ちます。

  • USBポートと信号の受信部を持つ簡易スペクトラムアナライザ
  • パソコンに接続して使用(単体で使用不可)
  • 表示器及び表示の制御器としてパソコンを使用
  • 一般的に安価

USBスペクトラムアナライザの特徴、まとめ

メリット
  • 小型
  • 軽量
  • 低消費電力
  • 安価
  • 操作容易
  • 膨大な記録の保存可能
デメリット
  • パソコンが必要
  • 利用周波数帯が狭い
  • スキャン時間限定
  • スキャン分解能限定
  • 側波帯雑音(基礎雑音)

用途としては、以下が考えられます。

無線LANはケーブルを使用しませんので非常に便利な通信システムですが、通信時に、不要な電波やノイズの影響を受ける可能性があります。これらの影響を受けると通信が途切れる、スピードが遅くなる、極端な場合は通信がストップする等の障害が発生します。無線LANを使用する無線周波数帯域において具体的に可能性のある不要な電波は、自分が使用しているのと同じ無線LANの電波(同一チャネル、又は隣接チャネル)、ZigBee、家庭内で使用されているコードレス電話、Bluetooth、電子レンジからの漏れ電波、アマチュア無線、各種医療機器、ワイヤレスカメラ、モニタ等の電子機器から発射されるノイズ、その他大電力を扱う機器からの高調波ノイズ等が考えられます。
これらの不要電波障害からの影響をなくすには、電波を分析する必要がありますが、これには電波の成分分析、即ちスペクトラム解析が有効です。上記の不要電波のスペクトラムを、時間軸と周波数に対するスペクトラムの形、分布、密度、規則性のパターン、発生時間帯等を分析することでノイズの原因を絞り込むことが可能になります。これらのノイズを排除するか、又は使用する周波数(チャネル)を変更することにより、安定で高速なWi-Fi通信を行うことが可能になります。

具体的な例として実際の製品を以下に示します。

パソコンに接続を行い、2.4GHzと5GHzの無線LAN
(Wi-Fi)帯域のスペクトラムを見ることが出来ます。
上図は、Wi-Fiの802.11bのスペクトラムを
実際に受信した時のグラフです。

詳細は製品ページをご覧ください。

Chanalyzer 6

3.ネットワークアナライザ

ネットワークアナライザは、高周波回路やマイクロ波回路、またはデバイス等の高周波特性(インピーダンスなど)を測るための装置です。回路や素子(被測定物)に高周波/マイクロ波を入力し、被測定物からの反射、又は通過状態を測って被測定物の電気的特性を測ります。高周波やマイクロ波を取り扱う専門家にとっては非常に重要な測定器です。

4.信号発生器

信号発生器は、電波そのものを測定するものではありませんが、電波を発射したり受信したりする高周波装置の性能を確かめるために便利な装置です。基本的な信号発生器(SG : Signal Generator)は、周波数・電力・変調についての情報を表示する表示器、周波数・電力・変調を設定するためのボタンやダイヤル、出力端子(N型コネクタが多い)を備えております。周波数シンセサイザーを利用しており、非常に狭い周波数ステップで周波数を設定することが可能で、周波数を自動的に連続して変えながら出力することも可能です。

5.周波数カウンタ

無線の送受信機には、色々な周波数の信号が使用されます。しかも周波数の確度、安定度は規格に合致する必要がありますので、測定は重要です。無線機や受信機の研究、設計、検査、保守、修理等で利用されます。

6.高周波電力計

高周波の電力を測定する電力計を「高周波電力計」と言いますが、低周波での測定と異なり、インピーダンスの不整合がないこと、周波数特性、確度等の高周波の特性が優れている必要があります。

7.LCRメータ

LCRメータは、L(インダクタンス)、C(キャパシタンス)、R(レジスタンス)を測定する装置で、電子部品の検査、品質管理、研究開発に有効な汎用装置です。これら、コイル(L)、コンデンサ(C)、抵抗(R)等の部品は、無線機器にとって重要な要素で装置の中に多数使用されています。直流での抵抗は、一般的にテスターを用いて行いますが、コイル(L)やコンデンサ(C)のような部品は、高周波で使用し、その特性を発揮しますので、測定に際しては高周波信号を使用する必要があります。

電波法

電波は遠くまで飛んで行きますので、世界中で同じ、又は非常に近い周波数を勝手に送信しますと、混信(電波や信号が混じり合う)が発生し、何の規制もなければ最終的には発射電力の競争になってしまいます。これでは電波という限りのある資源をうまく利用することが出来なくなります。従って、国際的に協定を結び、それぞれの国で電波法を制定し有効利用できるように管理を行っております。その大筋の内容は、使用出来る周波数の割り当て、用途の割り振り、またそれに対する出力電力、無線機を取り扱う無線従事者等の規定です。

無線に関する免許
1. 無線従事者免許

無線機(特に電波を発射する装置としての送信機が重要ですが受信機も含みます)を取り扱うか、又は監督する無線従事者は、その用途、電力に応じてそれ相応の国家資格を得る必要があります。主な資格としては、総合無線通信士、海上無線通信士、海上特殊無線技士、航空無線通信士、陸上無線技術士、陸上特殊無線技士、アマチュア無線技士等があります。

2. 無線局免許

無線局とは、「無線設備及び無線設備の操作を行う者の総体のことであり、受信のみを目的とするものを含まない」、と電波法に規定されております。無線局には、無線機とアンテナが含まれ、特に周波数、送信電力、用途、無線従事者が重要な項目になります。

3. 技術基準適合証明

これは、特別な扱いで簡易に免許の手続きが出来るものの一つで、携帯電話、コードレス電話、無線LAN、Bluetooth、Zigbee、RFID、PHS端末等、正式な証明のあるものは、利用者が無資格で、しかも手続きを行うことなしに使用することが出来ます。(現在TELECは、技術基準適合証明又は工事設計認証の登録認定機関の一つです。ちなみに日本国の認定機関は、現在国内で14社、海外では12社あります)

ユーザは、技術基準適合証明の他に工事設計認証、または技術基準適合自己確認が行われている適合表示無線設備を使用する場合には、通常義務付けられている無線局免許申請時や変更申請時の予備免許、落成検査、変更検査が省略される簡易な免許手続を受けることができます。ただし、無線電話事業者、製造メーカ、販売業者等はこれらを取得し、各製品への取得証明表示をすることが必要です。

4. 免許を要しない無線局

無線局の無線設備から3メートルの距離において、その電界強度が322MHz以下で、毎メートル500マイクロボルト以下のもの、等の条件がありますが、これ以外の周波数や制限電界強度も含め、詳細は関連電波法を参照してください。

5. 電波法に抵触した場合
  • 違法に無線局を開設し、又は運用した者は、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が課せられます。
  • 法人の代表者又は法人若しくは、人の代理人、使用人その他の従事者が、その法人又は人の業務に関し、規定の違反行為を行った場合には、「1億円以下の罰金刑」が課せられます。