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再生可能エネルギーを支えるバッテリーエネルギー貯蔵システムの電力潮流とデータ統合技術
近年の、CO2排出の削減を目指す脱炭素化の大きな流れの中で、再生可能エネルギーの導入が進んでいます。
BESS (Battery Energy Storage System=電池エネルギー貯蔵システム) は、リチウムイオン電池などのバッテリーにエネルギーを蓄え、必要なときに配電することで、送電網の安定化を支援することができます。この近代的なBESSは、もはや単なる充放電システムではありません。持続可能な開発とエネルギー転換の世界的な傾向に合わせて、世界中の政府やエネルギー関係部門によって優先されています。最近、いくつかの政府が大規模なBESSシステムへの投資と開発を強化しています。
国際エネルギー機関(IEA)が発表した「Electricity Market Report 2023」によると、今後3年間で新電力の98%が再生可能エネルギーで発電されると予想しています。しかし、風力や太陽光のような再生可能エネルギーは予測不可能であるため、高速レスポンスが可能なメガワットレベルのBESSが必要となります。
2022年、米国は、再生可能エネルギーと気候変動プロジェクトの支援に3,700億米ドルという驚異的な予算を割り当てるインフレ削減法(Inflation Reduction Act=IRA)を可決し、投資オフセットの最大30%がエネルギー貯蔵装置に充てられました。一方、中国は国内のエネルギー貯蔵産業の成長を支援するために、2025年までにエネルギー貯蔵規模を30GWに達成することを目指しています。その結果、エネルギー貯蔵技術は、発電、送電、配電、消費の4つの主要な柱に加えて、送電網システムにおける5番目の柱として認識されつつあります。
先進の電力インテリジェンスマネージメントシステム
近代的なBESSはもはや単なる充放電システムではありません。"電力潮流"と"データフロー"を統合する高度な電力インテリジェンスマネージメントシステムへと進化しています。電力潮流は,需要変動に応じて調整する供給力の変動により、時々刻々変化しています。この電力潮流を適正に調整することにより、電力設備の過負荷防止や安定度向上などの系統の安定運用、送電損失の軽減や適正電圧の維持を図ることができます。BESSの運用は、バッテリーを管理し、発電と送電網と情報を交換するためのセキュアなネットワークコネクションを確立し、電力使用を最適化することを含みます。しかし、このような進歩は、電力およびオートメーションシステムプロバイダーにとって、ネットワーキングとサイバーセキュリティに新たな課題を提示します。かつては、ネットワーク伝送の第一要件は、単に"コネクティビティ"でした。しかし、BESSシステムと送電網の深い統合に伴い、ネットワークの可用性とセキュリティに対する要求は劇的に急増しています。
幸いなことに、近年、産業用ネットワークと産業用制御サイバーセキュリティ技術は、大きな進歩を遂げる中で、さまざまな重要インフラストラクチャーにシームレスに統合されています。ここでは、BESSプロバイダーがシステム設計をする際に、時に考慮すべき必要な4つのネットワーク技術要件を解説します。
1. ネットワーク通信関連の重要な指標の監視
高度なネットワークスイッチを使用すると、光パワーやネットワークパケットエラー率などのポイント・ツー・ポイント通信の重要な指標をリアルタイムで監視できます。これらの指標は、システムオペレーションのリアルタイムステータスを提供するだけでなく、潜在的なハードウェア障害やネットワーク干渉を警告することもできます。たとえば、異常な光パワーは、光ファイバートランスミッターに重大な障害がある、またはオンサイトでの配線に問題があることを示している可能性があります。早期に検査して介入することで、通信の中断を防ぎ、BESSシステムを円滑に稼働させることができます。
2. 高可用性ネットワークアーキテクチャ
産業用イーサネットは、BESSと送電網間のリアルタイム通信要件に対応するために、ミリ秒レベルのバックアップネットワークアーキテクチャを設計しました。この構造は、リアルタイムで安定した伝送を提供するだけでなく、ネットワーク障害が発生した場合にバックアップネットワークに迅速にスイッチすることができるので、中断のないデータフローを保証します。PRP/HSRゼロパケットロス技術は、変電所と通信する際のBESSネットワークの信頼性を向上させることができます。
3. 機器のIPマネージメントを簡素化し、ネットワークセキュリティを強化
大規模なBESSには多くのネットワークデバイスが組み込まれていることが多いため、NAT(ネットワークアドレス変換)機能により、IPの設定および管理を簡素化することが必要です。NATを使用すると、同じバッテリーストレージコンテナ内の複数のデバイスがIPアドレスを共有でき、内部ネットワークは潜在的な攻撃者から隠された状態になり、ネットワーク全体のセキュリティが強化されます。
4. 国際的な産業制御システムのサイバーセキュリティ規格または仕様への準拠
近年、産業制御システムのサイバーセキュリティに対する意識の高まりに伴い、IEC62443などの多くの新しい産業制御サイバーセキュリティ規格が国際的に広く受け入れられ、重要な電力インフラストラクチャーに適用されています。これらの規格は、個々の製品、システム全体のセキュリティ、長期的な安全管理に関するサイバーセキュリティエンジニアリングの概念全般ををカバーしています。
結論として、技術の急速な進歩とエネルギー転換の強い傾向に伴い、電力システムにおけるBESSの役割はますます重要になっています。そのオペレーションを成功させるには、電気化学、オートメーション、ネットワーク通信など、さまざまな分野の専門知識を統合する必要があります。この学際的なコラボレーションは、運用効率、セキュリティ、持続可能性を確保しながら、BESSテクノロジーが将来のエネルギー需要を確実に満たすために、業界を超えた人材をより多く採用することの重要性を強調しています。
BESSの詳細については、下記の技術情報をご覧ください。