技術情報
産業用ワイヤレスソリューション
産業用ワイヤレスネットワークを最適化するための8つのヒント
概要
産業用ワイヤレス技術は、製造と流通分野で通信の品質を向上させる革新的な方法を模索している世界中のオペレータと工場管理者に競争力を提供します。効果的な通信インフラは、産業機器に対する高いレベルの信頼性、可用性とメンテナビリティを提供することにより、運用費用とサポート費用を削減して、設備投資を最小限に抑えます。
一般的にワイヤレス技術は商用アプリケーションで日常的に使われているにもかかわらず、産業オートメーション分野においては、施設にワイヤレス技術を大々的に導入することをまだ多くのプラントオペレータや管理者が躊躇しています。また、既にワイヤレス技術を採用している施設では、まだその技術の十分な潜在能力あるいはその使用による利点を十分に理解していないと思われます。この記事では、産業用ワイヤレスユーザがネットワークインフラ内で生じる問題を確認し、解決するために役立つ8つの有効的なヒントを提供します。
なお、ワイヤレス技術の詳細については、次のページも合わせてご覧ください。
技術情報:快適な無線環境を構築するために (MetaGeekソリューション)
製品情報:あなたには電波が見えますか? Ekahau サイトサーベイソフトウェア (ESS-PRO-SW2)
- Ekahauサイトサーベイ 使用イメージ
産業用ワイヤレスネットワークを最適化するための8つのヒント
① 5GHzチャネルを使用して2.4GHzチャネルの電波干渉から回避
標準のWi-Fi通信では、同じチャネルに設定され、同じWi-Fiエリア内で動作するすべてのWi-Fi無線機は、同じ通信媒体を共用します。従って、Wi-Fi通信においてチャネル利用率の評価をするときには、そのエリア内のすべてのワイヤレスデバイスを考慮する必要があります。例えば、2.4GHzのチャネル6の周波数の飽和をチェックするには、その周波数を使用する対象エリアのすべてのアクセスポイントだけでなく、ZigBee、Bluetooth、アナログカメラ、コードレス電話、電子レンジといった、同じチャネルで非802.11通信を使用する他のデバイスも考慮する必要があります。チャネルが飽和している場合は空いているチャネルに切り替える必要があります。しかし、2.4GHzの周波数は帯域幅が狭いため、そのチャネルを頻繁に使用する産業用アプリケーションにはお勧めしません。
- 1.同一チャネル干渉
- 同じチャネルを使う
すべてのクライアントとAPが
通信する時間を競い合います
- 2.隣接チャネル干渉
- チャネルが重なり合っている
すべてのクライアントとAPは
重なり合って通信します
- 3.非Wi-Fi干渉
- 802.11以外の
非802.11デバイスの
通信媒体と競合します
参照元:MetaGeekソリューション:Wi-Fiの知識 - なぜチャネル1、6、11を使用?
一方、5GHzの周波数は広い範囲の多くのチャネルを提供するため、通常、チャネル同士のオーバーラッピングがありません。しかし、5GHzのチャネルは、気象レーダーや自衛隊のレーダーシステムも使用します。多くの国が、合法的に5GHzの周波数を使用するワイヤレスデバイスに、DFS(Dynamic Frequency Selection)機能をサポートするように要求しています。したがって、DFS機能を持った5GHzワイヤレスデバイスを使用すれば、産業環境でもいちばんクリーンな通信を選択し、全体的に優れた通信品質を提供できます。
② 距離計算機を使って最大の信号到達距離を実現
高速な802.11ワイヤレス伝送速度を維持するには、強力な信号強度が必要です。当然、信号強度が弱いワイヤレス通信を使用すると、スループットの低下または通信の切断に繋がります。信号到達距離を改善するには、いくつかの方法があります。例えば、自由空間伝搬損失の影響を低減するために高利得アンテナを設置したり、900MHz(日本では許可されていません) のような低い周波数へ切替えたりします。正確にそのエリアの通信距離や帯域幅要件を推定するためには、ワイヤレス距離計算機 が使えます。ワイヤレス距離計算機は、問題のエリアの理論的なモデルを提供できます。そして、物理的なサイトサーベイの実施により確認することができます。そのために、まずワイヤレス距離計算機を使用してネットワークの長距離通信パラメータを立案し、ネットワークのワイヤレス帯域幅と容量をより細かく把握するために、実際のサイトサーベイを通してその結果を確認します。
③ ワイヤレス冗長技術を使用してリンクのアップタイムを最大化
クリーンな通信環境と十分な信号到達距離を保持している場合でも、他の要因によってワイヤレスネットワークが不安定になることがあります。隠れノード(Hidden Node) といったセットアップに関係する問題は、例え優れたネットワーク設計がされていたとしても接続問題に繋がる可能性があります。さらに、導入場所が管理できない場合には、未知のソースからの予期しない電波干渉がネットワークのセットアップに影響を与える可能性があります。特に重要なアプリケーションの場合には、コネクションのアップタイムを最大とする目的で、予期しない障害から復旧するためにデュアルRF冗長といったワイヤレス冗長化技術を使用します。
④ ネットワーク内のモバイル機器に対する十分なAP範囲の実現
ワイヤレスAPは、範囲が限られています。デフォルトアンテナを使用した一般商用APがカバーする平均距離は、半径約50mです。AGVなどの移動するワイヤレスクライアントがAP間をスムーズにローミングできるようにするためには、各APの範囲がオーバーラップしている必要があります。
ワイヤレス範囲は、アンテナを変更することによって拡大できますが、多くの場合ユーザはアンテナの垂直面範囲を見過ごしています。殆どの802.11用アンテナは、信号強度を増幅しない受動素子です。信号の到達範囲を拡大できる唯一の方法は、アンテナ信号によって生成された放射パターンを圧縮することです。例えば、無指向性(omni-directional)アンテナは、水平方向に360度の放射角を有しています。その水平方向の範囲を改善するには、垂直面の角度を犠牲にする必要があります。そのため高利得アンテナを実装または高利得アンテナに切り替えた後、非常に高い位置にアンテナを配置しないでください。アンテナが高すぎると、地上のデバイスに到達する信号強度が不十分となります。
⑤ MIMOクライアントアンテナを利用したモバイル運用の強化
2.4GHzおよび5GHzを使うワイヤレス通信には、APとクライアント間に邪魔物が無いLOS (Line of Sight=見通し) が必要です。信号の透過や障害物を利用した反射を使用してワイヤレス接続を維持することもできますが、信号強度の減少がネットワークの安定性と全体のスループットに影響を与える可能性があります。障害物による遮蔽を回避する方法の一つは、非常に高価となりますが、APの台数を増やすことです。APとクライアント間の適切なLOSを実現するためにクライアントのワイヤレスアンテナを増やすことは、具体的なメリットを提供します。デバイスのワイヤレス範囲を拡大するために802.11nの2×2のMIMO技術を使用すると、モバイルデバイスの前面に1つ、および背面に1つの、合わせて2つのアンテナを実装できます。
⑥ モバイル運用のためのローミングパフォーマンスの最適化
ミリ秒レベルのローミングブレークタイムを実現するためは、最先端のワイヤレスローミング技術を導入する必要があります。このようなローミングパフォーマンスを最適化することができる802.11r (iOSデバイスが1つのAPから同じネットワーク上の別のAPにローミングする際、FT(Fast Basic Service Set Transition)と呼ばれる機能を使ってすばやく認証する)といった規格が存在するにもかかわらず、多くのワイヤレスM2Mベンダは、未だに独自のローミング技術に依存する傾向があります。高度なローミング技術は、現在のAP接続で信号強度が弱くなったときに、ワイヤレスクライアントが自動的に新しいAPを検索することを可能にします。正しいローミングしきい値パラメータの設定は、ダウンタイムを回避するには重要です。異なる環境とアプリケーションシナリオに基づくローミングパラメータをオペレータが微調整できるローミング技術を採用することは、ネットワークのパフォーマンスを最適化してダウンタイムを無くすことに役立ちます。
例えば、Moxa独自のTurbo Roamingは、さまざまな産業アプリケーションにおいて最適なローミングパフォーマンスに必要な柔軟性を提供するために、調整可能なローミングパラメータをサポートします。
⑦ プロトコルの互換性に関連する問題を克服
802.11規格のプロトコルのある種の特性は、有線イーサネットとワイヤレスリンク間の透過的な通信を妨げます。TCP/IPベースの自動化プロトコルの多くは問題なくデータを送信することができるにもかかわらず、802.11の機能には、産業オートメーションプロトコルと互換性を持たせるために微調整を必要とする場合があります。802.11 AP/クライアント通信アドレスプロトコルは、スマートフォンといったワイヤレスクライアントがネットワークの端末装置であると想定して設計されています。この目的のために、限られた数のアドレスがワイヤレスパケットに予約されている理由がここにあります。ワイヤレスクライアントが、実際の端末装置ではなく、追加されるイーサネットベースの端末装置(例えば、それに接続されるPLCおよびフィールドデバイス)に接続するためのデバイスであるとき、802.11規格のプロトコルは、単に端末装置のMACアドレスを使用してデータパケットを正確に転送することができません。このため、Moxaは、MACクローン技術(※)を使用することで、このLayer 2イーサネット通信の制約を解決します。MACクローン技術は、追加する端末装置のためにMACアドレスがワイヤレスリンク全体を透過します。そして、PROFINETといったLayer 2ベースの自動化プロトコルのためのワイヤレス通信を可能にします。
- ※MoxaのMACクローン技術:既存の工場機器との相互運用性
多くの既存の有線SCADAシステムまたは他のネットワーク、MAC認証またはLayer 2(MACベース)通信はネットワークセキュリティのために使用されます。しかし多くの場合、標準802.11 AP-クライアントプロトコルの制限のために、ワイヤレスクライアントの後にあるデバイスはクライアントのMACアドレスにより置き換えられます。そして、その逆もあります。この制限を克服するために、Moxaは、ワイヤレスクライアントの後のデバイス自身のMACアドレスを維持するために "MACクローン" 技術を開発しました。
⑧ Wi-Fi Alliance ロゴで確認された携帯用デバイスの運用互換性
スマートフォンやタブレットPCなどのスマートな携帯デバイスは、現在、産業活動においても広く使用されています。Apple、HTC、Samsung、Sonyを含む、多くの異なるスマートデバイスのベンダは、異なるオペレーティングシステム(例えば、iOS、Android、Windows)のスマートデバイスを販売しています。これらの携帯デバイスの全てに共通していることが一つあります。802.11規格を経由して、工場のAPのすべてと通信できることです。一定の運用互換性基準に準拠したデバイスだけに、Wi-Fiロゴを表示できます。Wi-Fiロゴは、Wi-Fi技術の促進とWi-Fi製品の認証を行う非営利組織であるWi-Fi Allianceによって発行されます。認証プロセスに関わるコストが高価なために、すべてのIEEE 802.11対応デバイスが認証のためにWi-Fi Allianceに提出される訳ではありません。しかし、Wi-Fiロゴがないことが必ずしも、デバイスがWi-Fi機器と互換性がないことを暗示しているわけではありませが、Wi-Fiロゴを所有していることは、デバイスレベルのWi-Fi運用互換性に関して一定の信頼を与えます。
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