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フローティング太陽光発電の未来 - 運用とメンテナンスの新たな可能性
日本政府は、2030年度までに再生可能エネルギーの比率を20~24%にする目標を掲げています。日本の2020年上半期の再生可能エネルギーの発電量は前年同期に比べ18.6%も増え、その中でも、太陽発電が14.3%増加しています。太陽光発電プラントの設置に必要な土地を確保することが難しい場合は、その代替えとして、貯水池、川、湖、海上などの水上を利用したフローティングベースの太陽発電プラントが注目されています。水面に浮かべたフローティングプラットフォームにソーラーパネルを配置することで、地上の貴重な土地が解放されます。また、地上の設置に比べて、水面からの光の反射を利用して効率を増大させることができます。また、一般的に、気温が上昇すると太陽光モジュールの効率的な動作が妨げられる恐れがありますが、水の冷却特性により、ソーラーパネルは高温領域でも良好に機能することができるため、厳しい温度条件下でも効率的に機能します。加えて、フローティングパネルによって提供されるシェードにより水面温度を低下させ、水の蒸発を減らすことができ、貯水池の水量を保持します。勿論、蒸発の速度はフローティングプラットフォームで覆われる面積に直接関係します。現在、日本、中国、台湾、韓国などの国々では、総容量2,400 MW(※)のフローティングソーラープラントが設置され、これは、24万世帯に電力を供給することができます。フローティングソーラーファームの優れた特徴は、オランダ, フランス, シンガポール, インド, ベトナム, タイ, スリランカなどの国々からの投資を呼び込み、推定値は3億8,000万ドルに上ります。
もう1つの重要な課題は、太陽光発電プラント資産に対する毎日のメンテナンスです。沖合のフローティングシステムは、陸上のフローティングシステムよりもメンテナンスがより困難となります。陸上では自動車を使いアクセスできることに対して、沖合の太陽光発電プラントはボートなどの船舶を必要とするため、日常のメンテナンスが大きな課題となります。テクノロジーが成熟するにつれ、プラントのサイズも規模が大きくなり、メンテナンスタスクがほぼ不可能になるほど困難となり、悲惨な結果に繋がる可能性があります。例えば、中国の安徽省にあるフローティング太陽光発電プラントでは、炭坑を水で満たした貯水池を利用して、16万枚の太陽電池パネルを設置しています。メンテナンス作業員はパドルボートを使用して機器を修理し、池を毎日掃除しています。台風が襲来し、それに伴って豪雨や大きな波が発生することで、作業者は危険に晒されます。
従来から、太陽光プラントは定期的なサイトの検査に大きく依存しており、当番の従業員を割り当てて、すべての機器の毎日の検査を行っていました。その結果、これらの検査は、設備の状態に関係なく固定費として発生することになります。多くの場合、機能しているデバイスの定期的なチェックや、故障が発生した場合は、適切な点検や修理のために陸上と配備サイトの間を移動するため、かなりの時間をかけて実行しています。もう1つの一般的なシナリオは、晴れた日でも、予期しない電力発電の不足が発生する問題です。故障、原因、問題の場所は、陸上のコントロールセンタから簡単に特定できないため、検査員は問題が見つかるまで、すべてのフローティングモジュールを確認する必要があります。それは、干し草の山から小さな針を見つけようとするようなもので、時間と手間がかかります。さらに、限られた輸送オプションや、気候や水流の方向などの要因により、検査が困難で危険になり、メンテナンスの能力が低下します。
近年、メンテナンスの課題を克服するために、Internet of Things (IIoT)がフローティング太陽光プラントで使用されています。IIoTベースのソリューションの最初のプロバイダの1つであるMoxaは、グリーンエネルギープロジェクトのオペレーションとメンテナンスを改善するためのIIoTの効果的な使用の直接的な経験を有しています。過去10年間にわたり、Moxaは、世界中の2,000以上の太陽光発電プラントに関わる世界的に有名な独立系ソフトウェアベンダである DNV GL企業のGreenPowerMonitor と協力してきました。IIoTコネクティビティソリューションは、オーナーがSCADAシステムを通して発電と機器の状態をリアルタイムで監視できるシステムを構築できます。また、不具合が発生したときにデバイスのメンテナンスチェックを実行できます。SCADAプラットフォームは、自動的にアラームを発信し、システム上でメンテナンスタスクを実行するように構成され、これをオーナーが追跡できます。不具合の内容と場所に関する知識を備えた検査員は、適切な場所に適切なツールを適切なタイミングで配置することで、デバイスをタイムリーに修理できます。経験によれば、中央監視およびメンテナンスシステムを備えた発電プラントの効率は、このようなシステムを備えていない他の発電プラントと比較して、少なくとも20%向上できる可能性があります。
さらに、IIoTを介して収集されたデータを使用して、異なる状況下でのパフォーマンスを比較することにより、水域に近接した機器の潜在的な故障率を事前に判断できます。新しい機械学習アルゴリズムを導入して、オーナーが機器の予知メンテナンスを実行して、永続的な損傷を回避できるようにすることができます。例えば、気温や湿度の上昇によりデバイス内部の温度が上昇すると、デバイスの寿命が大幅に短くなる可能性があります。機械学習アルゴリズムからの情報は、オーナーがデバイスに関する予測的な洞察を得ることができます。また、設定された温度や湿度状態に近づくと、警告を発したり、対応する対策を自動的に開始したりできます。
IIoTの予測機能は、グリーンエネルギー予測と電力網コネクテッドテクノロジーを適用して、リアルタイムの予測を取得し、電力網コネクテッド再生可能エネルギー源からの発電を効果的にコントロールすることもできます。 この飛躍を遂げるには、何よりもまず、リモートの沖合機器から陸上のコントロールセンターへのデータ転送のための安定したネットワークが必要です。GreenPowerMonitorとMoxaは、このような状況で完全なネットワーク切断を防ぐためのコネクションバックアップソリューションを構築しました。このソリューションにより、業界標準の80ミリ秒ではなく、ネットワークの復元中に20ミリ秒以内にバックアップチャネル経由でデータを送信できるため、情報の中断のないフローが保証されます。
太陽光発電テクノロジーの新たな進歩、建設方法の改善、IIoTの活用により、フローティング太陽光発電プラントは、最終的に運用やメンテナンスを妨げている制約や制限から解放することができます。
※参考:REN21, Renewables 2020 Global Status Report, Paris, REN21 Secretariat.