技術情報

マシン同士が非常に精密に通信することが要求される産業用アプリケーションでは、わずか1ミリ秒の遅延でもダウンタイムの発生につながり、その結果、生産に大きな損失が発生する恐れがあります。すなわち、制御系データなど緊急性が高いデータのイーサネットフレームは、決められた時間に確実に宛先へ到着できなければ、宛先のデバイスとシステムの制御が遅れ、期待するパフォーマンスを実現することができません。では、どうすれば問題を解決できるのでしょうか。それには、1ミリ秒ごとに優先順位を付けることができる高度なタイムセンシティブネットワーキング (TSN) のイーサネットテクノロジーを活用することで、産業オートメーションの完全な転換を実現し、この問題を解決することができます。

TSNの市場規模と成長

Markets and Marketsの市場調査レポート によると、世界のTSNの市場規模は、2023年に2億米ドルと評価され、2023年から2028年までに58.3%のCAGRで成長し、2028年に17億米ドルに達すると予測されています。

この記事では、TSNの台頭を牽引しているもの、TSNが産業効率をどのように変えているのか、このテクノロジーを導入する際の課題、そして、これらの課題に取り組む方法について探ります。

TSN導入の主なメリット

TSNの変革力は、例えばある大手家電メーカーにおいて明らかになっており、いくつかの主要分野で大幅な改善が実現できることが証明されています。

• 確定的な通信 (Deterministic通信)：TSNの低レイテンシーで確定的なトラフィックのスケジューリングにより、生産ラインのデバイスの精密な制御と同期が可能になります。これにより、リアルタイム制御とシステム全体の応答性が向上し、データ集約型の環境で高いパフォーマンスを維持するために不可欠となりました。
• 相互運用性：TSNは、異なるベンダーからの多様な生産デバイスのシームレスな統合を可能にし、ネットワーク管理と最適化を簡素化します。この合理化されたネットワーク管理と最適化により、生産ライン全体で一貫した互換性とパフォーマンスが確保されました。
• ITとOTのコンバージェンス (融合)：ITとOTシステムを単一のネットワーク上に統合することで、オペレーションの合理化、オーバーヘッドを削減し、迅速な意思決定を可能にしました。
• 複雑なネットワークの簡素化：TSNは、ネットワーク通信を標準のイーサネットに基づく単一の簡素化されたアーキテクチャーに統合し、複雑さとコストを削減すると同時に、容易なスケーラビリティを可能にしました。
• 生産性の向上：TSNの制御データに優先順位を付け、タイムリーな伝送を確保する機能により、メーカーの生産性が向上し、ダウンタイムの削減、応答時間の短縮、デバイスの有効性の向上が実現しました。

これらの機能強化の累積効果は、運用効率の改善、生産性の向上、そして効率と精度に関するメーカーの目標に向けた大幅な進歩となりました。

TSNテクノロジーを導入する際に考えられるハードル

TSNは説得力のある利点を提供しており、企業にとって、システムや資産にTSNを利用した統一された産業用ネットワークに統合することは魅力的です。ミッションクリティカルなネットワークと非クリティカルなネットワークを組み合わせることには利点がありますが、TSNのような新しいテクノロジーを統合すると、新たな課題が生じます。新しいテクノロジーの導入を検討している組織は、これらの要件に関して懸念を抱えているかもしれません。次のセクションでは、これらの具体的な要件に焦点を当て、導入を成功させるための戦略を提案します。主な課題は以下の通りです。

• データ量の増加：ネットワークに接続するデバイスが増えるにつれて、データトラフィックの量が急増し、この需要の増加を効果的に処理するためには高帯域幅の機能が必要になります。ギガビットおよび10Gの接続は高速化に不可欠ですが、それに伴い、ネットワークリソース管理のコストと複雑さも増大します。AIや機械学習などの高度なアプリケーションがこれらのシステムに負担をかけ続ける中で、帯域幅の効果的な処理はさらに重要になります。
• ネットワーク管理の複雑さ：TSNネットワークの接続デバイスの増加に伴い、ネットワークの管理はより複雑になります。これらのプロセスを簡素化するためには、コンピューターを使って工作機械の動きを数値制御するテクノロジーであるCentral Network Controller (CNC) などの高度な管理および設定ツールが不可欠です。しかし、テクノロジーへの投資、トレーニング、継続的なメンテナンスの必要性を考えると、企業はこれらのソリューションを導入する際に負担が大きすぎる可能性があります。
• システムの互換性：関連するテスト仕様に準拠した製品、または確立されたテストベッドに統合された製品を使用すると、スムーズなTSNの実装が容易になります。これらの標準は、統合の課題を緩和し、効率向上を加速するために重要な互換性と信頼性を確保します。しかし、これらの標準化された製品を見つけ、検証し、統合するには、時間と多くのリソースを必要とすることがあり、さまざまな規格や認証を理解するために専門的な知識が必要となります。

TSN統合を成功に導く道

TSNの統合には複雑さが伴うことを認識することが重要です。前述したように、リアルタイム制御の向上、シームレスな相互運用性、統合型ネットワークアーキテクチャなどの利点は大きいですが、対処すべき課題もあります。導入を成功させるためには、組織は複数の重要な側面を考慮する必要があります。

• フルギガビットパフォーマンス：産業環境におけるデータ需要が増加する中で、大量のデータを効率的に処理するには、高帯域幅の機能が必要となります。したがって、堅牢なネットワークパフォーマンスを確保するには、各ポートでフルギガビット速度をサポートするTSNソリューションを選択することが重要です。高帯域幅と低レイテンシーの通信は、リアルタイムのデータ交換を維持するために不可欠であり、複雑な産業プロセスに必要な正確な制御と応答性を実現します。
• 簡単な設定：デバイスのセットアップと管理を簡素化するWebベースのグラフィカルユーザインタフェース (GUI) などの直感的な管理ツールを探す必要があります。これは、複雑さが増す可能性のある大規模な展開では特に重要です。
• コンパクトで柔軟な設計：スペースが限られた狭いエリアにも簡単に設置できる、コンパクトで適応性の高い設計の機器を選定する必要があります。省スペース設計により、高度なネットワーク機能を既存のインフラストラクチャにシームレスに統合することができます。
• 互換性：製品が必要なテスト仕様に合致しているか、既存のテストベッドに含まれているかを確認します。これらの標準に準拠することで、TSN統合の成功に不可欠なシームレスな互換性と信頼性の高いパフォーマンスを保証することができます。

Moxaの役割

Moxaは、産業用ネットワークソリューションのリーダーとして、IEC/IEEE 60802 TSN profileやIEEE 802.1 TSN Task Groupなど、世界規模のTSNイニシアチブに積極的に参加しています。MoxaのTSN-G5004およびTSN-G5008シリーズ イーサネットスイッチは、2024年の夏、Avnu Allianceから世界初のTSNコンポーネント認定を取得し、歴史的なマイルストーンを達成しました。最大8つのフルギガビットポートを備えたこれらのスイッチにより、オートメーションエンジニアは完全に統合されたネットワークを簡単に構築することができます。

TSNテクノロジーがオペレーションをどのように変えることができるかについて、詳細は、下記の技術情報をご覧ください。

技術情報：TSN (Time-Sensitive Network) のときが到来 - 未来とは、今である